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概要

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旅行先を決定し、予約するかが描かれている。言うまでもなくフィクションだが、まったくの絵空事ではない。「ストーリーの中に出てきた技術は現実に存在するか、テスト段階にあるか、試作品が開発段階にある」。未来旅行白書の作成に携わった英コンサルティング会社、フューチャーラボラトリーの共同創業者であるマーティン・レイモンド氏はこう断言する。 お気づきだろうか。仮想同居人の「Sir(i シリ)」とは、アップルがiPhone(アイフォーン)やiPad(アイパッド)向けに開発した、話しかけるだけで自分のやりたいことをサポートしてくれる“パーソナルアシスタント”だ。日本語にも対応し、「週末の京都の天気は?」などと質問すると情報を探して表示してくれる。10年後には旅行先もダイナミズムを増し、年内にも商業運航が開始される予定の宇宙旅行が一般化している様子がうかがえる。 現在、旅行先や旅行商品選びは、旅行会社の店頭や予約サイトを通じて行われるか、サプライヤーから直接購入する方法が一般的だ。選択肢が増え情報が氾濫するなか、旅行情報を横断検索し一覧表示する比較サイトも、負担軽減や利便性の高さから市場の支持を集めている。ユーザーは口コミサイトをうまく活用し、ときにはソーシャルメディアの情報も判断材料に加えながら、目的やニーズに合った1つを探し出す。 だが、未来旅行白書で描かれるシナリオでは、この流れや仕組みが劇的に変化する。一連の作業を各個人に帰属する“eエージェント”が担ってくれるからだ。eエージェントとはすなわち、シリと同様、人工知能を備えたウェアラブル機器のこと。世界的に著名な未来学者として知られるダニエル・ブルス氏は、「2020年には誰もが、常に行動を共にする自分だけのeエージェントを持つようになる」と予測する。この個人専属代理店が提供する新たな旅行サービスが、膨大な量の個人データから旅行履歴や嗜好、好みの旅行スタイルを捉え、そのときの気分まで加味したカスタムメードの旅行提案だ。 eエージェントの起源と目される技術はすでに開発されている。シリの生みの親である米研究機関SRIインターナショナルが開発した対話型旅行関連アプリ「Dest(i デスティ)」がそれだ。専用アプリをインストールしたアイパッドに向かって質問すると、ユーザーが過去に好んで選んだ物や検索履歴に基づき、志向に合った旅行に関する評価やコメントをオンライン上で検索し表示する。たとえば、小さな子供がいる旅行者には、家族で気軽に利用できるホテルの口コミ情報を表示するといった具合だ。 デスティはまだアイパッド用アプリが流通しているのみだが、こうした人工知能がグーグルグラスのようなウェアラブル機器に備わり、常時インターネットに接続して、ユーザーの質問や要求に応える“旅のお供”の役割を果たすようになるという。ウェアラブル機器はコンタクトレンズへの装着が可能な微小回路も開発されているため、今後、劇的に小型化が進むことは間違いなく、人々が常に身に付ける時計や宝飾品に付属するなど、違和感なく装着できるようになるとみられている。 人工知能の進化で何より注目すべきは、ユーザーの求めるものを予測してオリジナルの提案を行えるようになるという点にある。フューチャーラボラトリーのレイモンド氏は、「予測ソフトウェアによって、詳細かつカスタムメードの旅行体験を企画する日が来るのも時間の問題だろう」と指摘する。 異業種分野では、類似の例が身近にある。化粧品メーカーのポーラは7月から、現在の肌から将来の肌状態を予測し、オーダーメード感覚で一人ひとりに適した化粧品を提供するサービスを開始する。過去25年の間に蓄積した肌に関する膨大なビッグデータを活用することで実現できるもので、提案する商品の組み合わせは256万通りにも上るという。こうした現実を踏まえると、千差万別のサービスが旅行分野でも実現できるようになる日は、そう遠くないのかもしれない。未来旅行白書では、旅行会人工知能が好みを把握千差万別にカスタマイズTRAVEL JOURNAL 2014.6.16 77次の半世紀へPart 3 ● 展望|特|集|