ActiBookアプリアイコンActiBookアプリをダウンロード(無償)

  • Available on the Appstore
  • Available on the Google play

概要

TJ180402

4 TRAVEL JOURNAL 2018.4.2 はら・ゆうじ●1956年生まれ。東京都職員、アクロス・トラベラーズ・ビューローなどを経て、91年に風の旅行社を設立し現職。2012年からJATA理事、16年から旅行産業経営塾塾長を務める。本のメガバンクで激しいリストラが始まっている。今後実行する大規模な店舗の統廃合や人員・業務のスリム化で、メガバンク3行合計で3万2500人もの人員が浮く。中でもみずほFG は26年までに1万9000人を実数で減らしていくというからただごとではない。 直接の要因は日銀のマイナス金利政策で内部資金を国債で運用できなくなったことにある。その減収を補おうと貸し付け増に躍起になったが、設備投資しなくなった日本の企業で優良な貸出先はみつからない。住宅ローンや企業融資の低金利競争が続き、利ざやが縮小して利益が出なくなった。元来が高い人件費を抱えた高コスト体質だ。結果、構造不況業種といわれるようになってしまった。 しかし本質的な要因は、フィンテック(金融テクノロジー)によって、今後数年で大幅な余剰人員が発生することにある。窓口業務だけではない。融資はもちろん、アナリストやトレーダー、ディーラーもAI(人工知能)に取って代わられる。具体的には各行ともロボティック・プロセス・オートメーション(RPA)と呼ばれるソフトウエアのロボットを導入して事務作業を自動化し、業務の劇的な効率化を図る方針だ。 ところでRPA とは何か。3分類あるというが、1つ目は定型反復業務の自動化。2つ目は人間がプログラムしたアルゴリズム判断処理で行う自動処理。3つ目はAIによる機械学習処理。この3つが同時並行的に進むというから空恐ろしい。 しかしこうした議論は、銀行の存在意義そのものがあり続けることが前提となっている。果たしてそうだろうか。中国の電子決済や仮想通貨の進展を見ていると、銀行というビジネスモデルそのものが崩壊している印象を受ける。 例えば、中国の都市部では、買い物のほとんどが、支付宝(アリペイ)や微信支付(ウィーチャットペイ)を使い現金はほとんど使わない。中国では現金は偽札も多く信用度が低い。クレジットカードはセキュリティーや手数料の問題で浸透しなかった。結果、デビットカード型決済が成長し、その代表格が支付宝と微信支付である。特徴は手数料が無料。屋台の飲み代から電気、ガス、水道まで日常生活の支払いがすべてでき、海外送金までできてしまう。知人や友人への送金、割り勘払いもできて、利息が付く預金サービスまで始まっている。これでは銀行はチャージする時に使うだけで後は関係なくなる。蛇足かもしれないが、クレジットカード会社による世界支配も無意味化しそうな勢いだ。 私には銀行の心配する義理などないが、AI が想像以上に速いペースで世界を変えつつあると感じる。果たして私たち旅行業界の議論はこれに追いついているのだろうか。旅行業務は複雑だからAI にできっこないなどと希望的観測にしがみついていないか。ネット社会でも、コンサルティング力を発揮すれば旅行会社の活路はあるというが果たしてそうだろうか。複雑なコンサルティングこそAI に向いているのではないか。ならばどうすればいいか。圧倒的な個性を確立し豊かで魅力的な旅行商品をタビナカを含めて創造すること。それが私なりの答えである。もちろん、業務渡航で発揮されるソリューションや団体旅行のオーガナイズが簡単にAI に置き換わるはずはない。まだまた旅行会社と人間の役割はある。しかし、それも永遠ではない。 今、銀行がそのビジネスモデル崩壊まで視野に入れて危機感を抱き対処しなければ、10年後には金融の舞台から消え去っているかもしれない。銀行に限らずどんな分野でも同様の現象が起きるだろう。世界はまさに流動化しつつある。銀行が危ない!?日文・原優二(風の旅行社代表取締役社長)視座(次回は4月30日号に掲載します)