ActiBookアプリアイコンActiBookアプリをダウンロード(無償)

  • Available on the Appstore
  • Available on the Google play

概要

TJ180402

つだ・よしあき●1992年に東京大学を卒業後ANA入社。旅行代理店セールス、販促プロモーション、運賃、路線計画など営業・マーケティング関連業務を担当。2013年よりANAホールディングスへ出向し、経営企画課長。16年より現職。(ANAホールディングス デジタル・デザイン・ラボ チーフ・ディレクター)文・津田佳明TRAVEL JOURNAL 2018.4.2 35 ANAのイノベーション創出部隊として、デジタル・デザイン・ラボが発足してちょうど2年が経つ。4人でのスタートから、クラウドファンディング・ドローン・宇宙・アバター・ロボット・赤ちゃん号泣予防・時差ボケ解消・マインドフルネス・シェアエコ・スポーツ……等々、試行錯誤しながらやってきたら、3年目突入にあたって14人まで仲間が増えた。「大成功!」と言える状況ではないし、何か自信を持って示せる指針もないけれど、強く意識している言葉が3つある。 1つ目は、WiLの伊佐山元CEOの「日本の大企業には黒船を呼び込む出島が必要」という言葉。長年かけて定着した既存事業の判断基準や業務プロセスは、攻めとスピード面でイノベーションの阻害要因となる。でも安全運航が常に至上命令であるエアラインは、それを捨てるわけにはいかないので出島が必要になる。ANA の出島としてデジタル・デザイン・ラボができたのは、この言葉があったからといっても過言ではない。 2つ目は、早稲田大学の入山章栄准教授の「チャラ男と根回しオヤジのタッグこそ、企業イノベーションの源泉だ!」という言葉。これは言い得て妙だ。誰も思いつかない新しい価値を創造するには、与えられたミッションを確実に遂行する優等生ではなく、目立ちたがりで、新しいもの好きで、アウトプットにこだわるチャラ男が必要だ。その一方で、チャラ男は放っておくと必ずといっていいほど、社内で煙たがられるし、あつれきを生んでいく。そこで根回しオヤジの登場である。自分がなるのは何か損した気分だけれど、これまでのびのびやってきたツケだと思って演じている。 最後は慶應義塾大学大学院の前野隆司教授の「イノベーションを起こせる人は幸せな人」という言葉。今世紀に入って、コスト削減や働き方改革によるスリム化・スマート化を進めてきたことで、個性を磨き、異質なものとつながるための遊びの部分が失われてきたような気がする。閉塞感が漂うなかでなく、高いハードルにも楽観的にチャレンジする心境、すなわち幸せな状態にないと、新しいことをしてみたいというモチベーションは湧いてこない。 組織・人員配置・マインドセットが整ったところで、さあどうするか。当面は「犬も歩けば棒に当たる」作戦だ。もともとは「余計なことをすると災難にあう」という意味のことわざだが、「積極的に行動してみると思わぬ幸運がある」とも解釈できる。 ANA にはR & D がないので、新しい技術やビジネスモデルは基本的に外からしか入ってこない。だから外を歩こうということだ。そこで当たる棒が災難なのか幸運なのかは、セレンディピティ(偶発的に予期せぬ発見をする能力)を含めて、自分たちの実力次第である。3つの言葉を体現していけば、きっとその実力がついてくるものと信じている。 これから1年間、どのような棒に当たったかを紹介していきたいと思う。イヌも歩けば(次回は4月30日号に掲載します)