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概要

TJ180402

つるもと・こうじ●オーストラリア政府観光局を経て、2002年、観光に特化したデジタルマーケティング会社「マーケティング・ボイス」設立。12年、観光産業ニュース会社「トラベルボイス」を設立。JTB総合研究所の客員主任研究員やパイプドHD(東証一部)の社外取締役なども務める。Profileレンス「フォーカスライト・カンファレンス」では、3年前にすでに在宅ガイドの実証実験が紹介されました。在宅のガイドが旅行者に付けたカメラを通じて送られてくる動画を見ながらリモートで案内し、旅行者の旅先での体験を支援するのです。 「高度なセンサー情報による進化」は、GPS の精度がcm 単位まで向上することにより旅行者の個別識別が可能になります。そうなると美術館を訪れた旅行者の一人ひとりが、どの絵画の前にいるかを判断したうえで最適な音声解説や情報提供を行うといったサービスも実現できそうです。 「超高度なパーソナライズ化」も起きるでしょう。たとえば旅行にスーツケースを持参する必要がなくなるかもしれません。米国では、旅行者の趣味嗜好や体形・体格をAI(人工知能)が判断し、好みに合ったファッションをそろえ、旅行者が到着する前に宿泊予定のホテルのクローゼットに届けておくといったサービスが考えられています。 デジタル化の進展とIT の進化は、「旅行の定義の変化」さえ引き起こそうとしています。これまでの旅行の定義はA 地点からB 地点への物理的移動を伴う体験でした。しかし、たとえば米エクスペディアは、病院に入院していてアフリカの風景を見ることができない子供の代わりにサファリに撮影隊を派遣し、持ち帰った高画質の映像を病院内で映写。臨場感あふれる映像体験に子供たちは大喜びしたという実話もあります。では、この子供たちは旅行をしているのか、いないのか。現在の旅行の定義からすれば答えは「していない」ですが、デジタル技術の進化で臨場感が増していったとき、定義が変わる可能性があります。 これまで旅行のサービス提供者は交通機関や宿泊施設などのサプライヤー、旅行会社やオペレーターに代表される中間業者に分けられましたが、21世紀に入り大きな変化が起きています。たとえば、KDDI がホテル予約サイトを買収しました。また複数の通信会社が旅行者の行動分析のサービスを提供し始めています。では、彼らは通信事業者であってツーリズムの構成メンバーではないのでしょうか。私は十分にツーリズムの一員だと思います。つまりツーリズムそのものが再定義を必要とする時代が訪れようとしているわけです。 サービス提供者も大きく変わるでしょう。4年ほど前に「unhote(l アンホテル)」という考え方が登場しました。つまりホテルであってホテルでないのが「unhotel」です。本来、宿泊施設の基本かつメインの機能は宿泊でしたが。必ずしもそうではない時代になっています。エアビーアンドビーがその例です。宿泊機能を提供するのではなく、オーナーと交流したり、地元の生活文化に直接触れたり、異文化での体験を提供しているのだと考えられます。「unhotel」の概念が紹介された翌年には日本では「変なホテル」が登場しました。このホテルを利用する旅行者たちは、おそらく宿泊の機能を求めているのではなく体験を求めに行っているのです。恐竜が出迎えてくれ、荷物がレールに乗って部屋に運ばれる。そんな体験をしてみたいから選択するのです。 こうした「いま起きていること」と「これから起きること」を踏まえて、旅行業界は何をしていくべきなのか。本日の情報が半歩でも1歩でも前へ進むための力につながってくれれば幸いです。ツーリズムの再定義が必要TRAVEL JOURNAL 2018.4.2 21