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概要

TJ180402

●沖縄の目指すべき姿しもじ・よしろう●立教大学大学院ビジネスデザイン研究科修了。沖縄県文化観光スポーツ部観光政策統括監を経て13年に琉球大学観光産業科学部教授就任、18年3月まで観光産業科学部長。Profi leハイブリッド・リゾートOKINAWAビーチリゾート文化リゾートビジネスリゾート【必須条件】インフラの質向上(大型MICE施設整備、空港ビル容量の拡大等)サービスの質向上(スポーツ、ウェルネスなどの高度化、観光人材育成等)観光地経営の質向上(DMO機能強化、財源確保等)の適地としても注目されている。 観光客の増加に伴い、沖縄県経済に占める観光産業の重要性は高まったが、一方で地域全体としての課題も明確になってきた。現在の沖縄観光における最も大きな問題は労働力不足だろう。特に宿泊施設や飲食店では深刻な状況で、沖縄観光コンベンションビューロー(OCVB)では宿泊施設で働く外国人労働者のビザ要件緩和を要請している。 労働力の確保に加えて、ICT 活用による生産性向上が求められているが、こうした取り組みは遅れている。また、観光客増加を背景に県内景気は好調を持続しているが、観光産業従事者の給与水準は低迷しており、待遇改善は急務となっている。 観光客の増加は県民生活にも影響を及ぼしている。交通渋滞や物価上昇のほか、外国人レンタカー利用者による交通事故の増加や医療機関でのトラブルなどが顕在化している。観光地域づくりの基本は「住んでよし、訪れてよし」だが、地域が来訪者を「受け入れてよし」という状態が大事で、規制緩和と規制強化のバランスを取る必要がある。 沖縄県は第5次沖縄県観光振興基本計画(2017年3月改定、21年度まで)で目指す将来像として「世界水準の観光リゾート地」を掲げている。同計画では観光収入1兆1000億円、観光客1人当たり消費額9万3000円、平均滞在日数4.5日、人泊数4200万人泊、入域観光客数1200万人を目標にしている。 沖縄経済の自立化に向けては観光客数の増加も重要だが、今後は質の強化を重視したい。島しょ地域である沖縄県での急激な観光客増加は県民生活や環境への悪影響という副作用をもたらす可能性がある。沖縄観光が目指すポジショニングは単なる世界的なビーチリゾートではなく、自然、文化、都市といった複合的な要素が一体となった「ハイブリッド・リゾート」であり、平和や学術なども含む多様な分野の交流拠点となることである。その実現に向け、インフラ、サービス、観光地経営の質を高める取り組みが必要だ。 インフラの質については、20年の那覇空港第2滑走路増設後の新ターミナルビル建設が喫緊の課題である。現在のビルでは処理容量が限られており、利用者の満足度を高めるうえでも早急に整備計画を進めたい。また、観光客の県内移動利便性を高めるための2次交通整備や、ビジネスリゾートを支える大型MICE 施設整備など急ぎたい。 サービスの質については、エンターテイメント、スポーツ、ウェルネス、空手、食分野などで多様化・高度化を図り、沖縄観光の優位性を高めることが必要となる。質の高いサービスを提供するためには観光人材の育成強化が必要で、観光教育の充実と社会人の学び直しの機会充実が求められる。 観光地経営の質については、自治体観光政策の充実と観光地経営機関としてのDMOの機能強化が必要である。沖縄観光コンベンションビューローが沖縄全域を対象とするDMO 認定を目指しているが、離島を含む各地域では財源や専門人材確保などの面で課題が多い。ICT の進展に対応するためにも、DMO にはデジタルマーケティング分野の専門家も配置したい。 観光は外部環境の変化を受けやすい産業であり、マネジメントの一環として平時から産業界と行政が一体となった観光危機管理体制を整えておきたい。危機発生時に迅速かつ柔軟に対応できる“強い観光地”を目指したい。多様な文化の交流拠点にTRAVEL JOURNAL 2018.4.2 15