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概要

20_1964-1983

碁● ガ● 評● 勝をつづけたのだが,それらの飛行機のなかでわが同胞のすがたはほとんどみあたらなかったのであつた。かんがえてみればそれは当然のことであって,いささかの英語力がないかぎり, こうしたアメリカ国内のローカル航空会社の運航する飛行機に乗ることにはためらいと抵抗感があることは充分に理解できる。アメリカだけではない。世界のいたるところでその国の航空会社の運航する国内線を利用する旅客のなかには日本人はほとんどみあたらないのである。そして, こうした外国の中小の航空路は多くの日本人にとって,すくなからぬ不安感をいだかせるものであることも充分に理解できる。だから, 日本航空に依存することには右にのべたような当然の理由がある。しかし,海外旅行によって日本人が本当に「国際化」という目標にむかって努力をかたむけなければならないのが,われわれの義務であるとするならば,われわれ日本人はよりおおらかな気持ちをもって他の航空会社をもふんだんに利用し,世界をくまなく見聞し,かつ体験する習慣を身につけるべきであろう,とおもう。より深t人間交流の時代ヘ第二に海外旅行はそれじたい善である, とわたしはまえに書いたが, とりわけ「パック旅行」のばあい外国経験というものはいちじるしく限定され,歪曲される傾向があるという事実にも注目しなければならない。わたしなどの個人的観察によると,旅行代理店はそれぞれしのぎをけずって,団体旅行客の募集に懸命になっているが, 目的地での行動スケジュールをみると,そのコースはあまりにも標準化され,かつ一方的なかたよりがある。たとえばわたしはホノルルの東西文化センターでの国際共同研究に従事しており, 1年に2, 3回はホノルルで2週間ほどをそれぞれすごすのだが,ハワイにやってくる日本の観光客のコースはワイキキのハワイアン・ショー,北風の強いパリ・ハイウェイ, さらにさいきんでは人気のでてきたハナウマ・ベイ,そしてアラモアナ・ショッピング・センターでの買物といったていどのことであって,ハワイ原住民をはじめ,太平洋諸民族の文化を知るための世界有数の施設であるビショップ博物館だの,あるいは東洋芸術のすぐれたコレクションをもっているホノルル・アート・アカデミーなどに足をはこぶ人は絶無といってさしつかえない。ましてや,中国系アメリカ人の集結している下町の現実を見学しようなどという人もめったにいないのである。わたしにいわせれば, ワイキキの海岸とショッピング・センターをあるきまわっているだけで,はたしてハワイの文化のどれほどがわかるものであろうか, と疑間をなげかけたくなってしまうこともしばしばなのだ。おそらくこれと同じことが世界の各地でくりひろげられているはずである。要するに海外旅行の経験というのは,旅行会社がつくったきわめて一面的かつ皮相的なプログラムにのって人間が移動するということであるにすぎず,それは外国文化の経験という観念からはほど遠いものであるように思われる。とするならば,年間400万人の海外旅行者数にくわえて, これからさきの日本人にもとめられているのはより質の高い海外旅行経験というものであろう。とりわけ行先国の人々とのあいだの個人的,人間的な接触と交流の機会がもっと用意されてよい。日本人の海外旅行は量で計測する時代をもはや卒業し,いまや質によって向上と発展がはかられなければならない時期にきている, とわたしはかんがえているのである。26