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概要

20_1964-1983

あった。一方,エネルギーの効率利用が叫ばれる中で, ロード・ファクターよりも収益重視への転換が, キャリアを中心に高まってきたのも,70年代後半の大きな特徴だった。そして,海の向こうの米国では, 自由競争によって,消費者により安く, より良質のサービスを提供できるというデレグ(規制緩和=航空自由化)法案が成立。これにより,世界の民間航空界の代表として一枚岩を誇ってきた73年10月の大幅値上げ以来,小康状態を保っていた原油価格は,79年早々に起こったイランの政変を機に再びさみだれ式の値上げに転じ,高くなりすぎた原油がさらにわずか1年で2倍になるという,いわゆる第2次石油危機となって,世界を襲った。第1次ほどのショックはないというものの,′ヾ―レル当たり10数ドルという値上げ幅は, ようやく立ち直りかけていた世界経済を直撃,マイナス知らずで伸び続けてきた日本の海外旅行市場も,初のマイナス成長を記録することになった。本格的な低成長安定成長時代の始まりである。曲り角に立つ世界の民間航空79年に400万人の大台に乗ったものの,80年の海外渡航者は再び300万人台に逆戻り,対前年比伸び率はマイナス3.2%となったのをはじめ,81年25%増,82年2.0%増,83年36%増と, ここ4年間の合計伸び率わずか5%という,わが国の海外旅行史上,考えられなかったような低い成長率に終わった。80年における自由化以降初のマイナス成長は,第2次石油危機による経済全般の不況のみでなく,航空運賃の値上げによる需要減退,量販マーケット韓国の政情不安,そして社会ダネになった買春ツIイイIATAと,米国の航空政策とが真向うから対立,戦後の民間航空界も新しい皮袋を求め,大きな曲り角にきたことを強力に印象づけることになった。なお,70年代後半は,ハイジャック事件が多発した時期で,その対策が世界的な関心を呼んだが, 日本ではこれと並んで,エア・サイアムの倒産が,「航空会社はつぶれない」という神話を打ち砕き,高度成長時代のひずみを物語る端的なケースともなった。アー批判など,幾重にも重なった結果によるものとの分析が,当初,主流を占めた。しかし,その後も3年続きで数%の伸び率に終わったことは,本格的な低成長時代が定着し始めたことを,いやがうえにも認識させる結果となった。旅行産業の進歩。発展を人間の成長にたとえていえば,80年代前半は,大入社会への人口に立って苦悩する青年期である。身体の仕組みができ,骨格が形成された60年代後半が幼年期,供給先行型ながら爆発的な伸びをみせた70年代前半が少年期,第1次石油危機によるリセッションの波間で,不安定な精神状態ながら“根強い需要"という,自らの生命力によって成長していった70年代後半の思春期,そして名実ともに大人の仲間入りを前に これまでとは違った生き方が聞われ始めた青年期― 少なくとも海外旅行を主体としたわが国旅行産業の流れは,そんなふうに捉えることができる。いうまでもなく,低成長時代におけるマーケティングの基本は,量から質への転換であり,収益重視を柱にした経営の効率アップだ。82年の英・レイカー航空と米。ブラニフ航空の相次ぐ倒産に航空会社の経営難を示す格好のケースとなったが,なかでも, レイカー航空の行詰まりは,過度な廉価大量販売が結局は,命取りになることを端的に物語る象徴的な出来事となった。急がれる新市場開発ひと口に言って,80年代の需給構造は,70年代の高度成長期に比べ,180度の転換を遂げた。ともかくも海外へ出ることが目的だった消費者は,80年代に入ると,リピーターの増大につれ,口うるさく,賢くなった。そして供給サイドでは,安い油を前提とする大量の航空座席販売から,限定された座席をどう効率よく捌くかに戦略の重点を移していった。さらには,団体旅行からFIT(=Foreignlndependent TOur)への指向が強まる中で,新聞募集の活用など,従来と異なる販売手法の登場が,何かと業界の注目を集めるようになった。また,年金ツアーの成功が物語るように,新しいマーケティング手法の開発や,熟年/シルバー世代といったニュー●マーケットヘの取組みも,一層大きな課題となってきた。市場規模が400万人といえば,海外旅行の大衆化現象をはっきりと示すバロメーターだが,それだけに今後は,欧米なみの長期有給休暇制度の採用など,社会的によほど大きな動機づけでもないかぎり, 2桁台の伸び率を期待するのは, まず至難なことになってきた。航空会社同様,旅行業者も,ひたすら勝ち残リゲームの中で最烈な戦いを強いられることになりそうである。一方, こういった低成長時代の到来の中で,旅行業者の責任が一段と重くなった改正旅行業法の実施は,旅行産業の今後のあり方を問う踏絵ともなった。が,逆にいえば,厳しい環境下で,そういった社会的責任が全うできれば,旅行産業の社会的地位は格段に高まることも事実である。80年代前半は,経営面ばかりでなく,社会的にも,旅行産業の真価が問われる重要な年となりそうである。と同時に,1964年の海外渡航自由化から数えて満20年の1984年は,旅行産業にとっても,名実ともに大入への仲間入りを果たす節目の年であるといえそうだ。マイナス成長招いた第2次石油危機長期化する低成長時代の到来