2025年3月24日 12:00 AM
コロナ禍後の旅行需要喚起策として実施された県民割と全国旅行支援について、会計検査院が検査結果を公表した。報告書では国から都道府県への交付限度額を算出する方法の不透明さや、実施体制にかかる無駄や非効率などの諸課題が指摘された。今後も実施されるであろう観光支援策はどうあるべきなのか。
会計検査院の検査対象となった県民割(21年4月~22年10月実施)と全国旅行支援(22年10月~23年12月実施)には1兆円近くの国費が支出された。日本中の旅行需要を消失させたコロナ禍から観光・旅行業界が立ち直りのきっかけをつかむために、両支援が大きく貢献したことは間違いない。また、旅行需要の適正な回復には刻々と変化する新型コロナウイルスの感染状況に合わせた素早い対応が必要だった。そうした事情をくんだとしても会計検査院の検査で明らかになった両支援の実態は残念なものだった。
県民割と全国旅行支援に先立って実施されたGoToトラベル事業に関する会計検査院の検査報告でも、支出先が適正に把握されていなかった問題や、取消料対応費用に関する不適切な申請と過大支給が指摘された。そうした反省と教訓が生かされたのか疑問が残る。
報告書はまず全体の予算を説明。20年7月に始まったGoToトラベル事業は感染再拡大により事業を停止する地域が広がり、12月には一時停止の対象地域が全国に拡大した。そこで各都道府県が同一都道府県内の旅行を割引支援できるよう用意された国の補助事業が21年開始の県民割であり、それを引き継いだのが全国旅行支援だった。
このため、GoToトラベル予算として20・21年度に計上された計2兆9658億円からGoToトラベル事業で支出した8962億円を差し引いたものが財源の大元になっている。最終的には県民割と全国旅行支援のために1兆1193億円を確保することになった。
一方、両支援事業の予算執行状況としては、21年度から23年度にかけて県民割に3016億7574万円、全国旅行支援に6890億7740万円が支出され両支援合計では9907億5315万円となった。財源として確保した1兆1193億円との差額、1285億4949万円は不用額となった。
予算の執行状況に関して会計検査院が問題視したのは都道府県に通知した交付限度額の算定方法だ。県民割と全国旅行支援はいずれも、観光庁から通知された交付限度額を基に各自治体が交付申請し申請の通り交付決定を受けている。その交付限度額の算定方法について観光庁は、算定方法に関する資料を保存していないとする。そのため県民割と全国旅行支援のいずれも明確な資料に基づく説明ではなく、当時の担当者からの聴取内容に基づく説明を会計検査院に対して行っている。
例えば21年3月流用分の県民割について観光庁の説明内容は概ね次のようなものだ。まず各都道府県のコロナ禍前の一定期間における延べ宿泊者数を算出。次にGoToトラベル事業を利用して各都道府県を訪れた宿泊者数のうち、同一県内を旅行した者の割合を調べ、各都道府県の域内旅行需要の割合を算出した。その上でその割合などを基に、予算全体の中で各都道府県にどれくらいの予算を割くか交付限度額を算定した。ただし、ここでさらに都道府県ごとに「所要の補正」を加えて最終的な交付限度額とした。ところが肝心の「所要の補正」の根拠はもとより、宿泊者数把握のために使用した統計は示されず資料も残っていないという。
そのため会計検査院では観光庁の説明に合わせた方法で交付限度額を試算した。ただし根拠が不明だった補正作業は行っていない。その結果、観光庁が算定した補正を加えた交付限度額と、会計検査院が試算した交付限度額にどれくらいの開きがあるのかが分かった。会計検査院の試算より交付限度額の乖離率がプラスに大きかったのは徳島県(372.5%)や奈良県(276.7%)で、100%以上が全部で8県ある。逆にマイナスに大きかったのは愛知県(-43.2%)、福岡県(-38.1%)で、マイナス20%以上が1道6県ある。
【続きは週刊トラベルジャーナル25年3月24日号で】[1]
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