Travel Journal Online

『ニセコ化するニッポン』 人ごとでなく考えるべきテーマ

2025年3月17日 12:00 AM

谷頭和希著/KADOKAWA刊/1650円

 ラーメン1杯数千円、タクシードライバーの月収が3桁になりそう……。インバウンドの話題が出るたびにセットで語られる感がある、いまのニセコ。外国人富裕層をターゲットに「選択と集中」を図った結果が現状なわけだが、この選択と集中を推し進めて場がテーマパークのようになっていくことを著者は「ニセコ化」と呼び、全国に広まりつつあると分析。具体的な地域や企業を例に、ニセコ化について考察したのが今回の本だ。

 若者の街だったはずが、インバウンドとクリエイターに向けて街づくりのかじを切った渋谷。ハンバーグ単品を選択し個性を尖らせたびっくりドンキー。うまくいっていない例としては、ヴィレッジヴァンガードなどが時代背景分析とともに挙げられている。

 うまくいけば黒字になり、働く人も潤うニセコ化だが、一方で選択と集中が進むなか、選択されなかった人々や物事は排除されていく。ニセコや白馬から退去する地元住民が増えている、という話は以前から取り上げれられているが、同じ問題を抱える京都民としては、地域の根本を揺るがす動きとして人ごとではない。

 「選択されなかった」側は居心地の悪いものだ。結果的に排除されてしまった人たちはどこに行けばいいのか。個人の好みが多様化した現在、「みんなが居心地がいい場所」というのは原理上ではつくれない、と著者は断言しつつも、そうやって分断された社会でどうやってポジティブに生きればいいのか、という点まで考察を広げていく。

 テーマパーク化(ニセコ化)しつつあるようにも見える京都から眺めると、この問題は観光業の関係者も一緒になって考えるべきテーマなのではないか、と腕組みさせられた一冊だ。

山田静●女子旅を元気にしたいと1999年に結成した「ひとり旅活性化委員会」主宰。旅の編集者・ライターとして、『決定版女ひとり旅読本』『女子バンコク』(双葉社)など企画編集多数。最新刊に『旅の賢人たちがつくった 女子ひとり海外旅行最強ナビ』(辰巳出版)。京都の小さな旅館「京町家 楽遊 堀川五条」「京町家 楽遊 仏光寺東町」の運営も担当。