宿泊施設関連協会の永山久徳理事が語る未来志向のおもてなし
2025.03.10 00:00

東京都と東京観光財団が12月に都内で開催した観光経営力強化セミナーで、宿泊施設関連協会の永山久徳理事が「未来志向のおもてなし」をテーマに基調講演を行った。観光業界の人材不足や生産性向上の取り組みなどについて紹介しながら、持続可能な観光業の未来への展望を示した。
コロナ禍の初期、日本の宿泊業界は大変な状況に直面していました。どんな病気か分からないなか、旅館業法の規定により宿泊を拒否できず、自宅や職場に戻れない海外からの帰国者の長期宿泊を受け入れざるを得なかった。医療や運輸など他の業界では条件付きで客を断ることができましたが、宿泊業界にはその柔軟性がなかったのです。この状況はおかしいとXで訴えたところ、国会議員の目に留まり、業法見直しの検討会に有識者として参加する機会を得ました。これが旅館業法改正のきっかけとなりました。
改正された時にはコロナは収束していたのですが、ちょうどカスタマーハラスメント(カスハラ)が話題となっていました。改正旅館業法に不当な要求をする宿泊客の受け入れを拒否できる根拠が追加されたことが、飲食業界などからも高い関心を集め、メディアで広く報道されたのです。
未来を予測することは、過去の人々の想像が現実になった例を見ると、ある程度可能だと分かります。大正時代に描かれた「顔を見ながら話す電話」や、1960年代に想像されていた機械による交通取り締まり、コンピューターを使った授業など、多くの予想が実現しています。ZOZOスーツのような体型測定サービスも、過去の人々が描いた未来像の1つでした。これらの例から、未来は私たちの「こうなればいいな」という願望を反映していることが分かります。100年後の理想を思い描くことで未来の姿が見えてくるのです。
未来の人手不足は地方では深刻な問題です。コロナ禍で70代のドライバーが辞め、乗客も減り、運転手の引退や廃業が進んでいます。人口ピラミッドを見れば若年層の減少が明らかです。2020年から35年の15年間で20~25歳が4分の3に減少し、年金制度を支える人が加速度的に減ります。東京は地方から来る若者に支えられていますが、将来的にはこれまで4人来ていた求人に3人しか来ないという労働力不足が懸念されています。
人口が減っていく段階に応じて変化が起こります。現時点では、タクシーがつかまらない、宅配便が指定時間に届かない、高齢者と外国人が増え、年中無休が廃止されるなどサービスの質が低下している段階です。次の段階になると、電車が予定通りに来ない、注文した商品が届かない、納期や工事が遅れる、停電や断水が増える、臨時休業が常態化します。米国や欧州ではすでにこの段階であり、勤勉さ以前に人手不足が原因だといえます。
人口減少がさらに進むと、時刻表が意味を持たなくなるかもしれません。在庫が不足し、新型の機種が出なくなり、停電と断水は長期化、店舗はいつ開くか分からない段階になっていきます。
そうなると、観光業はこれらのインフラ業界と人材を奪い合うことになり、優先順位で負ける可能性が高い。人材を確保するには給与や働きがいを向上させる必要がありますが、すでにコロナ禍で多くの人が旅館やホテル業界から離れ、特に調理や接客の経験者は介護業界に引き抜かれていきました。現在は高齢者や外国人労働者を活用し、機械化や省力化を進めていますが、それだけでは不十分な時代が必ず来る。安い給料や長時間労働の求人では人材を集めることは難しくなっています。
もはや「お客さまは神様」という考え方では従業員は集まりません。従業員とお客さまは対等であり、両者に目を配ることが重要です。おもてなしが無償サービスと混同される風潮が強くなり、昔のようにお客さまが心付けを渡し、お互いが気持ちよくなるような関係性が減っています。女将がすべての部屋を回るような文化はここ40年ほどのものです。これだけ時代が変わるとしんどくないでしょうか。このような変化に対して皆さんの理解が必要です。
カテゴリ#セミナー&シンポジウム#新着記事
キーワード#永山久徳#新着記事
アクセスランキング
Ranking