<寄稿>レジ袋有料化とインバウンド
2025.03.03 13:00

冬の寒風がまだ吹きつけるころ、韓国を訪れた。翌朝、滞在先近くのコンビニで飲み物や買い物をした。両手では持ち切れず、レジ袋をお願いすると100ウォン(約10円)が追加された。ホテルに戻り、何か使うこともあるだろうと、もらった袋を畳んでいた時、ふと袋の文字に目をやると「この袋は生分解性材料で作られた環境に優しい袋です」と韓国語で書かれていた(写真)。
日本では廃棄物・資源制約、海洋プラスチックごみ問題、地球温暖化などの課題の対策として、プラスチックの過剰な使用の抑制を図るため、20年7月1日から全国でプラスチック製買い物袋の有料化が始まった。政府は普段何げなくもらっているレジ袋を有料にすることで、それが本当に必要かを考え、私たちのライフスタイルを見直すきっかけとすることを目的としている。
日本でもいまではレジ袋の有料化がすっかり浸透しており、多くの人がマイバッグを携帯している。筆者が勤める大学でも、しばしば学生に「SDGsをやっているか?」と問いかけることがある。すると手が上がることはほとんどない。「買い物の時にマイバッグ持っていく人?」と問いかけ直すと、多くの学生が手を挙げる。素晴らしい!
日本のレジ袋有料化に関する制度や規定をあらためて調べると、有料対象の袋と対象外の袋が細かく規定されていることを知った。ざっくり説明すると、紙袋や布製の袋、持ち手のない袋などは有料化の対象外。また、①プラスチックフィルムの厚さが50マイクロメートル以上のもの(繰り返し使用が可能なため)、②海洋生分解性プラスチックの配合率が100%のもの、③バイオマス素材の配合率が25%以上のもの(植物由来の素材がCO2総量を変えないため、地球温暖化対策に寄与するため)のものは有料化対象外となっている。
価格も売り上げの使途も事業者自ら設定することとなっており、1枚当たり1円未満の価格設定をすることは有料化に当たらないという補足がなされている。
筆者は科学者でもなく、法学者でもないため、自然に分解される材料で出来ている袋に関する専門的な知見もなく、レジ袋有料化に関する法的解釈を行える知識もない。一市民として、マイバッグを持たずコンビニで袋代を払う自分の愚考を述べているに過ぎないことをお断りしておきたい。
消費者の共感を得るために
本論に入るとしよう。韓国のコンビニでもらった袋を眺めながら、レジ袋有料化は誰のため、何のためのものだろうかという素朴な疑問が湧いてきた。思えば日本のスーパーやコンビニでは、生分解性レジ袋をもらったことがない。いや、もらっていても気づかなかったかもしれない。実際、筆者も常にマイバッグを携帯するか、ちょっとした買い物は仕事用バッグに入れているため、有料のレジ袋をもらうことはそれほど多くない。
確かにレジ袋の有料化は、われわれ一般消費者にもプラスチック使用を抑制する抑止力につながっている。また、有料化が環境保護につながっていることは浅学ながらも理解できる。しかし、その実態は不明で、何よりもこうした取り組みでは消費者の共感を得ることが肝心なのではないか。
日本の規定に置き換えると、韓国のように生分解性レジ袋に課金することはルール違反になる。もっとも環境保護を考えるなら、生分解性の袋にも課金したらどうか。環境に優しい材料を使って製造する袋はそれなりの技術料やコストがかかるかもしれない。そのコストを消費者に負担させることで環境負荷の少ない材料の技術や生産、普及を促すことができる。有料化への理解も得られやすくなるのではないか。実際、筆者も日本で支払う袋代には制度以外の理解は少なかったが、韓国の袋代には「ならば私もコストを負担しよう」と妙に納得した。
旅行者にもマイバッグ携帯を
環境負荷を減らすために始まったレジ袋有料化に伴い、これまで無料だった紙袋を含め、さまざまなものが有料になっていると感じるのは筆者の勘違いではないだろう。間もなく訪日外客4000万人時代を迎えようとしているが、私たち生活者はマイバッグを携帯していても、インバウンド旅行者がそうであるとは限らない。海外旅行という特別な消費の中でレジ袋の数円程度の支払いを気にすることはほとんどない。
インバウンド客にとって有料化によるプラスチック使用の抑制が図られているとは考えにくい。環境先進国と観光先進国の両立を目指すなら、生分解性袋の普及と有料化の推進、あるいは日本のレジ袋有料化制度の周知を進め、旅行者にもマイバッグ携帯を促す工夫をしてもよいかもしれない。
崔載弦(東海大学観光学部准教授)
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