AIを味方にできるか 変わる旅の提案

2025.02.17 00:00

iStock.com/PhonlamaiPhoto

AI(人工知能)が世界の未来をのみ込みつつある。もちろん旅行・観光産業も例外ではない。グローバルOTAがAI活用にしのぎを削り、最先端AI企業との連携も始まっている。その先には旅行流通全体への影響もあると思わざるを得ない。旅行・観光産業のAI活用の現在地と未来を探る。

 今から10年前の2014年、スカイスキャナーがまとめた未来旅行白書「Future or Travel(2024年の旅行)」に、こんなシーンが登場していた。少々お疲れ気味のビジネスマンがため息をつくと、バーチャルハウスメイトがリラックスするための旅行を提案。両者は対話しながら旅行目的地を決め、最後はバーチャルハウスメイトに予約を音声で指示するというストーリーだ。白書の内容を取り上げた本誌は「言うまでもなくフィクションだが、まったくの絵空事ではない」とし、「ストーリーの中に出てきた技術は現実に存在するか、テスト段階にある、または試作品が開発段階にある」という専門家のコメントを引用している。

 そして今年、旅行者が旅行会社の担当者と対話するようなやり取りをAIと交わしながら、目的地を決めたり宿泊先を選んだり、航空券やレンタカーを含む予約手続きもAIに任せるような時代が本当に幕を開けることになりそうだ。

 英EYストラテジー・アンド・コンサルティング(EYSC)が昨年発表したAI市場規模に関する調査によると、チャットGPTが公開された22年のAI市場規模は1423億ドルだ。以降、年平均35.5%のペースで拡大し、30年には1兆8475億ドルに達すると推計した。生成AIが産業全体に適用された場合、年間2.6兆~4.4兆ドルもの経済効果をもたらす可能性があるとも指摘する。

 経営者にとってもAI活用は最重要課題となっている。IBMが世界30カ国の3000人の企業CEOを対象に23年に実施した調査では、75%が「最も進んだAIを導入した企業がビジネスの世界で勝利する」と考えている。

 AIが影響を及ぼす範囲はビジネス全般といえるほど幅広い。顧客との接点でも社内の業務効率化の場面でも活用が始っている。AIチャットボットを活用したカスタマーサービスの向上から、ビッグデータとAIアルゴリズムによる需要予測や価格戦略の最適化、バックオフィスのリスク管理や業務効率の向上まで、あらゆる場面で活用の余地があり、活用のレベルは年々上がっている。

 特に旅行・観光産業が注目するのが、顧客との接点における活用だ。AIがユーザーになり代わって情報を検索・選択したり、選んだ情報を基に計画立案したりする。その計画に基づいて予約や注文もする。いわゆるAIエージェントだ。

 世界旅行ツーリズム協議会(WTTC)の報告書「社会、ビジネス、旅行・観光におけるAIの活用事例と影響2024」でも、最も有望な領域の1つにAIエージェントを挙げる。報告書ではグーグルとスタンフォード大学が最先端事例について紹介した論文に言及しており、その内容が興味深い。

 架空のデジタルタウンに25人のAIエージェントを住まわせ、人間が要望を伝えた際にどう振る舞うかを観察する実験が行われた。1つのAIエージェントに「バレンタインデーのパーティーを開催したい」と要望すると、自律的に他のAIエージェントに招待状を配布し、知り合いをつくり、適切な場所と時間に一緒に到着するように互いで調整も行った。パーティーでは、集まったAIエージェントが互いに交流したという。研究室での実験とはいえ、進化の速さに驚かされるが、すでにAIエージェント実用化の動きも始まった。

 オープンAIは1月23日、「オペレーター」を発表。チャットGPTの有料サービス「プロ」のユーザーに公開した。オペレーターはデータにアクセスして与えられたタスクを実行するAIエージェントで、書類作成、物品購入、文章や画像情報のインターネット上への発信などの作業を担ってくれる。旅行関連では航空券や宿泊施設、レストラン等の選定や予約・購入手続きも行える。ウーバーやプライスライン、オープンテーブル、トリップアドバイザーなどと連携して実証事業を行い、フィードバックに基づき改良を重ねていく方針だ。

 オープンAIは、オペレーターに搭載している「Computer-Using Agent(CUA)」を近日中にAPIで公開し、開発者が独自にエージェント機能を構築できるようにするとしている。

【続きは週刊トラベルジャーナル25年2月17日号で】

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