2025年2月17日 8:00 AM
スケートボード教室の指導者に聞いたところ、昨夏以降は初心者の子供たちで予約も取れないほどの大人気になっているらしい。もちろんパリ五輪が大きな影響を及ぼしているのは明らかで、同様にブレイキンのスクールも大盛況のようだ。
振り返ってもウインタースポーツが長野五輪を契機に大きく変わったことは誰もが実感できるだろう。五輪を間近に見た若者がウインタースポーツに目覚めたり、感動した親世代が子供をスノーボードやアイススケートの世界にいざなったりしたことが、日本で世界レベルのアスリートが次々と登場する土壌となった。五輪は単なる一過性のイベントではなく、確実に次世代のスポーツ文化や社会に影響を与えている。
同様に日本が現在の技術大国となった背景には1970年に開催された大阪万博が大きく関わっている。万博が日本人にもたらした技術への興味や国際交流の楽しさ、そして未来へ向けての努力の大切さはその後の日本社会の進むべき道を決定づけた。70年代以降バブル期に至るまでの高い労働意欲と向上した技術力による経済成長は大阪万博が起点となっているといっても過言ではない。五輪がアスリートや生涯スポーツのきっかけになるのと同様に、科学者やグローバリストにとっての原点は万博なのだ。かくいう私もやりたい学問を見つけ、自身の進路を決定づけたのは85年の国際科学技術博覧会(つくば万博)の存在だった。
現在、日本は新しい産業を見つけ、シフトしていかなければならない局面に差しかかっている。グローバル化やIT技術革新の速度が加速するなかで、これまでのように既存産業に執着しているだけでは未来に向けて競争力を保つことは難しくなった。次に必要とされるのは、環境やAI(人工知能)、バイオテクノロジー、医療といった分野だが、日本はどれも出遅れていたり、規制の壁で進まなかったりして劣勢である。国民もそれを感じ取っており、不安が経済にも影響を与えている。
その意味で今年の万博は非常にタイムリーな開催となった。万博は単なる経済活動や集客イベントではなく、未来を見据えた技術や思想の発信の場だ。日本が次の生き方をまだ見つけられていないなかで、そのヒントを探すという意味では万博が果たす役割はとても重要だ。いま持っている日本の技術や知恵、今後の展望や未来の社会に対する提案を示し、それが世界から共感を得られるものかどうかを判断する場としても非常に有意義だ。
しかし、万博に対する国民の見方はまだ冷たく、特に予算に対して「大きな予算をかけて外国人を集めるくらいなら税金を下げろ」「福祉や復興に回せ」など近視眼的な意見が多い。そうではなく、万博は数十年にわたる日本の発展のための有効な投資であると理解するべきだ。
特に子供たちに対して、万博は彼らの人生を決定づける大きなチャンスになる。縮小社会やSDGsなど、決してバラ色ではない我慢を強いられる社会について学んでいるいまの子供たちにとって、会場での体験は大きな道標になるはずだ。万博はわれわれの都合で論評すべきものではなく、真の当事者はわれわれが未来を託す子供たちだ。万博を「自分は興味がない」程度の理由で否定することは子供たちや日本の未来、ひいては日本の繁栄のチャンスを閉ざすことにもなる。
まずは子供たちに楽しんでもらおう。そしてわれわれも、コロナ後少し縁遠くなった諸外国の文化を体験し、日本の未来に思いをはせようではないか。
永山久徳●グローバルツーリズム経営研究所主任研究員。岡山県倉敷市出身。筑波大学大学院修了。東急不動産を経て下電ホテル入社。全旅連青年部長、日本旅館協会副会長、岡山県旅館組合理事長など歴任。メディアを活用した業界情報発信に注力する。石切ゆめ倶楽部(ホテルセイリュウ)監査役。
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