地球に優しい報酬プログラム

2025.02.17 00:00

 ユーロニュースは、観光客を対象とした持続可能な観光を促すための世界各地の報酬プログラムについて報じた。昨今、過度な観光客の集中が社会課題となり、抜本的な対策を導入せざるを得なくなっているが、一部の観光地では逆のアプローチ、つまり無責任な行動に対する罰則を導入する代わりに、観光客が良い行動を取った時に報酬がもらえるような仕組みを導入し好評を博している。旅行者が訪問する地域でゴミを拾ったり、自然保護プロジェクトにボランティアとして参加したり、地球に優しい交通手段を利用した場合に報酬を与える制度だ。

 コペンハーゲンでは昨年夏の約1カ月、観光客の責任ある行動に対する報奨プログラム「コペンペイ」が試験的に導入された。公共交通機関の利用や徒歩・自転車での移動など、環境に配慮した行動をした場合に奨励金が支給された。ゴミ拾いや都市農園でのボランティア活動が含まれる。観光客はアプリを使って特典や参加アトラクションを地図上で探すことができる。特典には無料のコーヒー、アイスクリーム、グラスワイン、美術館の入場割引、カヤックツアーなどがあった。

 この取り組みは世界中のメディアにも大きく取り上げられ、利用者の満足度も高く、25年には範囲を拡大して導入する予定とのことだ。

 デンマーク自治領のフェロー諸島はナショナルジオグラフィック・トラベラー誌から「世界で最も愛されている手つかずの島」と評され、観光と自然保護を両立している。19年、観光が善の力になりうることを証明するために「メンテナンスのための閉鎖」プログラムを開始した。週末、人気の観光スポットを閉鎖し、ボランティアのみがアクセスできるようにする。ボランティア参加者は事前応募制で、ハイキングコースの補修や建設、道標の設置などを中心としたメンテナンス作業を行う。滞在中に地元の人々と親しくなり、志を同じくする旅行者と出会い、自然の宝庫の保護に貢献できるという。

 昨年春、仏ノルマンディー地方では地球に優しい旅行を奨励する「低炭素料金表」を導入した。列車、バス、自転車を利用してノルマンディーを訪れる観光客は、切符や自転車の写真を提示することで最低でも10%の割引を受けることができる。ノルマンディー観光局によれば、90の文化・観光施設が取り組みに参加しており、専用サイトで検索できる。二酸化炭素排出量を削減する観光客に報いる実用的方法であると説明している。

 人気スキーリゾートの伊ヴィアラッテアは昨冬、イタリア国鉄をオフィシャル・グリーン・キャリアに指定し、鉄道で到着した旅行者は1日券・2日券・6日券のスキーパスが最大25%割引となった。別の報道によれば、スキー休暇の二酸化炭素排出の50~80%は交通手段によるもので、列車での移動が最も環境への影響が少ないとされる。

 持続可能な観光の実現には規制や課税だけでなく、観光の力をポジティブに活用するための知恵と創造力も有効であることを示している。

小林裕和●國學院大學観光まちづくり学部教授。JTBで経営企画、訪日旅行専門会社設立、新規事業開発等を担当したほか、香港、オランダで海外勤務。退職後に現職に就く。博士(観光学)。専門は観光イノベーション、観光DX、持続可能性。観光庁委員等を歴任。相模女子大学大学院社会起業研究科特任教授。

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