『スキップとローファー』 丁寧な人間描写で能登に思いはせ

2025.02.17 00:00

高松美咲著/講談社刊/792円/既刊11巻

 旅で大きく心動かされた土地の1つが、冬の能登半島。日本海の荒波、吹き付ける雪。食堂で海鮮丼を食べていたら、大きな野良猫2匹が雪に負けず扉の外でじっとゴハンを待っていた。輪島の朝市、見附島、千枚田。全部が魅力的だった能登の復興がいまだ半ばというのは本当に心が痛む現状だ。

 さてそこで唐突に今回のマンガ。

 主人公は能登の過疎地から東京の進学校に首席入学した岩倉美津未(みつみ)。勉強はできるが都会にも大勢とのコミュニケーションにも慣れていない彼女は天然ボケを連発しながらも、まっすぐな性格で周囲をほぐしていく。

 ありがちな設定だが、本作が講談社漫画賞など数々の賞を受賞した理由は、みつみを巡る人物描写、特に人間関係の悩みをすくい上げる丁寧さだと思う。

 才色兼備だからこそ傷ついてきた結月、コンプレックスが多い文学少女の誠、打算的でみつみにもキツく当たるが徐々に自分の欠点を受け入れていくミカ、トランスジェンダーのナオちゃん、そして家庭の影響でこじらせ具合が半端ないモテ男の志摩くん。悩んだり泣いたりしながら、「転ぶことが多い人間だけど/そのぶん起き上がるのもムチャクチャ得意なんだから!」と進み続けるみつみに共感したりスカッとしたり、登場人物の青臭い行動に当時の自分を重ね合わせてきゅんとしたり。

 みつみの実家は著者の珠洲市にある実家がモデルで、地震で家は全壊、祖父母も帰らぬ人となったという。辛い思いは単行本の後書きにもつづられているが、その後の復興支援にも積極的に取り組まれており、行動力に脱帽だ。

 最新11巻ではみつみと志摩くんのもどかしくも初々しい恋がまたひとつの転機を迎えた。能登の描写に癒やされつつ、ますます目が離せない作品だ。

山田静●女子旅を元気にしたいと1999年に結成した「ひとり旅活性化委員会」主宰。旅の編集者・ライターとして、『決定版女ひとり旅読本』『女子バンコク』(双葉社)など企画編集多数。最新刊に『旅の賢人たちがつくった 女子ひとり海外旅行最強ナビ』(辰巳出版)。京都の小さな旅館「京町家 楽遊 堀川五条」「京町家 楽遊 仏光寺東町」の運営も担当。

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