國學院大の小林裕和教授が語るひがし北海道のデスティネーションDX

2025.02.10 00:00

ひがし北海道自然美への道DMOが12月に開催した着地型観光2.0を考えるシンポジウムで、國學院大學観光まちづくり学部の小林裕和教授が基調講演した。「ひがし北海道におけるデスティネーションDX」をテーマに着地型観光2.0の課題と可能性について語った。

 24年の訪日外国人客は最終的に過去最高の年間3600万人ほどが見込まれます。つまり、日本は今後、かつて誰も経験したことがない時代を迎えるわけです。

 これはどういう意味を持つか。人口減少社会の日本では人口が1人減るごとに胃袋が1つ消え、1日3食分の消費がなくなります。逆に訪日外国人客が3600万人やって来れば3600万個の胃袋が増え、それぞれが1日3食し、平均10泊すれば、10億8万回の飲食需要が発生するわけです。これほど急速に大きくなる市場はありません。訪日外国人客はそれだけインパクトのある市場です。

 これからはロールモデルがない時代を迎え過去のやり方だけでは対応できません。そういう時代に必要なことはエラー&ラーンであると、サッカー日本代表元監督の岡田武史氏(今治.夢スポーツ代表取締役会長)は指摘しています。やってみて失敗し、そこから学ぶ姿勢が必要です。また、観光産業の関係者が共通の目標を理解して共助することも重要です。

 観光地にはライフサイクルモデルがあります。知られていなかった場所が次第に認知されて観光客が増え、やがて観光客が増えすぎて衰退していく。あるいは生き返ってさらに発展していく。観光学の古典的な理論ですが、オーバーツーリズムなどを理解するためにいままた見直されています。ひがし北海道のように広い地域を擁する観光地域を理解し、打ち手を考えるうえでも役に立ちます。都市型の地域もあれば自然が多い場所もあり、観光客に知られていない場所もあれば大変よく知られた場所もある。同じ地域でも各観光地の特性が異なる段階にある場合、一律に「来てください」というマーケティングでは対応できません。非常に難しい時代を迎えたわけですが、そうした共通認識を持ったうえで着地型観光について考えたいと思います。

 着地型観光は日本だけに存在する特殊な言葉です。日本の旅行の大衆化を促しマスツーリズムをけん引したのは長らく旅行会社でしたが、時代の変化とともに旅行者のニーズが多様化し、その結果、この20年ほどでけん引役が変化。旅行会社の言う通りの旅行商品づくりをする時代ではない、地域が主体となった商品づくりが重要、と認識されてきたわけです。

 着地型旅行の課題は地域の住民を巻き込みながらも持続的に運営できるかどうか。交流体験を観光協会やDMOが率先して企画・開発し住民の参画を求めて実現、参加客の満足度が高い着地型観光商品もできました。ところがボランティア的な参画や、多少の報酬を得たにしても住民が疲弊して長続きしない事例が生じました。観光を本業としない住民が、日々来訪する観光客に対応するには限界があり、持続可能な仕組みづくりが十分にできなかったからです。

 さらに大きな課題は気候変動に伴う環境変化です。海洋環境が変化し海の幸を生かしたご当地メニューが作れなくなったり、今後は雪不足によって雪祭りのための採雪コストが倍増するような変化が起きる懸念もあります。

 では、これから何をすればよいのか。最初の事例として、道後温泉を紹介します。同温泉では皆で向かうべき方向性を一致させる取り組みとして、25年後を意識した「2050年ビジョン」を策定しました。自分たちの地域をどうしたいのか、先々を見据えたビジョンですが、6つのテーマ軸(温泉、歴史・文化、アート・工芸、ウエルネス、自然・環境共生、DX)と、5つの領域を設定して、10の具体的施策をまとめました。

 その中で、テーマ軸の一番目はDXに基づくデジタル温泉都市構想でした。デジタルを駆使することで来訪客に高い経験価値と満足度を提供すること、経済的効果を上げること、経費を削減することを具体化していくことを重視したのがその理由です。

【続きは週刊トラベルジャーナル25年2月10日号で】

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