観光政策と気候行動の統合 バクー宣言が意味するもの
2025.02.03 00:00

アゼルバイジャンの首都バクーで開かれた第29回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP29)は、観光産業にとって大きな節目となった。行動計画に史上初めて観光産業の気候変動対策が盛り込まれ、温室効果ガスの排出量削減がコミットメントに変わったからだ。COP29の意味を読み解く。
世界各地で気候変動対策が加速するなか、観光分野でも21年のグラスゴー宣言を契機に取り組みが強化されている。24年11月、アゼルバイジャンの首都バクーで開催されたCOP29で、国連気候変動会議史上初めて、観光をテーマにした日(観光デー)が設定され、「観光における気候変動対策強化に関するCOP29宣言」(バクー宣言)が発表された。
COP29のムフタル・ババエフ議長は観光デーの歴史的な意義について、「観光をパリ協定と持続可能な開発目標(SDGs)に沿って、世界の気候アジェンダに統合するための重要な一歩」と指摘。また、国連世界観光機関(UNツーリズム)のズラブ・ポロリカシュヴィリ事務局長は、観光デーで開催される観光における気候変動対策強化に関する第1回閣僚会議は、「野心的な目標が具体的な行動へと移され、ビジョンがコミットメントへと変容する転換点となる」とコメントした。
観光デーの背景には、コロナ禍から回復した観光産業にとって、持続可能性への取り組みは競争力と回復力に結びつく要素であり、なおかつ観光が社会や環境に与える影響に強い責任があるとの認識がある。30年までに観光関連の温室効果ガス排出量が少なくとも25%増加する可能性があるという従来のシナリオを回避し、適応努力を加速させるため、次の4つの目的が掲げられた。
1つ目は「政策の変更」で、バクー宣言の発表と、15年にパリ協定で定められた「国が決定する貢献(NDC)」に各国の観光行政当局の貢献を適宜盛り込むことを検討し、観光政策と気候変動対策の統合を強化する行動を呼びかけることだ。次に観光分野の関与で、グラスゴー宣言による気候対策を強化し関係者を増やすこと。3つ目は科学的根拠に基づくアプローチで、国連の「観光の持続可能性を測る統計枠組み(SF-MST)」を各国の観光による排出量を測るツールとすること。そして4つ目は制度化で、観光における気候変動対策を強化するための世界的な調整・パートナーシップのメカニズムを確立することが打ち出された。
これらの目的は、閣僚級会合、3つのハイレベル会合、2つのプレゼンテーションで集中的かつ多角的に議論された。そのうち閣僚級会合では、気候変動の影響に対する観光の脆弱性と解決策への貢献の可能性を認識し、今後の協力や政策の革新、民間の参画に向けた舞台を整える機会となった。アゼルバイジャンのフアド・ナギエフ観光庁長官を議長に、約30カ国以上の閣僚や在外公館代表に加え、世界旅行ツーリズム協議会(WTTC)や経済協力開発機構(OECD)が参加した。
COP29のババエフ議長はオープニングスピーチで、「これまで観光は気候変動対策への貢献者として過小評価されがちで、今後の取り組みを強化する上で未開拓の可能性を持っている」などと言及。観光デーの議論は単なる学術的なものにとどまらず、観光を気候変動対策の推進力とするために不可欠な政策やパートナーシップ、投資を形成していく、と話した。そしてナギエフ議長とUNツーリズムのポロリカシュヴィリ事務局長により、バクー宣言が発表されたのである。
宣言の目的は、気候変動枠組み条約の目的やパリ協定の目標達成に向けて観光セクターが重要な役割を果たすこと、SDGsや三重の地球危機(気候変動、公害、生物多様性の損失)への対応の必要性、各国の政策への観光分野の統合、クリーンエネルギーや施設の効率化といった持続可能性を促進するための具体策の推進、小島しょ開発途上国や後発開発途上国など経済的に観光が重要な地域への配慮、社会的包摂、資金・技術・能力開発の重要性などとした。バクー宣言は日本を含む52カ国の賛同を得て発効され、現在は62カ国まで拡大している。
【続きは週刊トラベルジャーナル25年2月3日号で】

小林裕和●國學院大學観光まちづくり学部教授。JTBで経営企画、訪日旅行専門会社設立、新規事業開発等を担当したほか、香港、オランダで海外勤務。退職後に現職に就く。博士(観光学)。専門は観光イノベーション、観光DX、持続可能性。観光庁委員等を歴任。相模女子大学大学院社会起業研究科特任教授。
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