地域の発意で

2025.02.03 08:00

 24年11月、政府の「新しい地方経済・生活環境創生本部(新地方創生本部)」での石破茂首相の発言「産官学金労言はいいですが、1回集めてご意見聞いておしまいみたいなことが結構あって、結局いろんなプランは東京のコンサルに頼みました。A町をB町に変えても中身一緒ということが結構あって、これは非常にまずいと」。その後の有識者会議でも同様の意見が相次いだ。

 昨年9月の観光関係フォーラムで、同じコンサル会社の同僚と思しき2~3人が自治体に提出するとみられる資料について打ち合せていた。「この資料の宛先をAからBに変えて、時間がないのでこのまま提出しましょう」と聞こえた。

 新潟で駅ビル改装を手がけた際、本社からテナント誘致、リーシングに在京のグループ会社のアドバイスを受けるべきと強く指導され、私は従った。東京から担当者が来訪、何度かの打ち合わせを経て事業計画案をまとめ営業に入ったが、商談はほとんど不成立。結局新潟の商圏、住民や新潟への来訪者側に立ったプランになっていなかったのが原因で、その後新潟で再立案した計画が成功し、順調な経営を行っている。

 自治体職員は忙しい。09年3月に開催された地方制度調査会の専門小委員会で市町村の状況や課題について報告があった。その中で小規模市町村の職員は地域住民への行政サービスだけでなく、県庁の各部局との連絡調整や資料提出に追われる実態が明らかになった。1人で県庁5部局の窓口を担当するケースもあった。

 国は地方創生にDX化推進、観光分野でも多くの補助金制度をつくり地域を支援している。その補助金を得るには各自治体で実施計画書をつくり、必要な審査を受け採択されなければならないが、計画書の策定が自治体職員にとってハードルが高く、申請を通りやすくフォーマットに記入するのにコンサルタントの手を借りることが多くなるという。コンサル側も各地域の特情を考慮せぬまま予算獲得のために実施計画書を書き、実証実験などを組み合わせて1~2年度で事業を終了させる計画を提出するケースが散見される。

 あるMaaS実証事業で、開始早々好評で地元利用者も定着し始めたにもかかわらず年度末には予算がなくなり、実装せずそのまま終了ということがあった。せっかくの事業が関係者の自己満足で終わった。地域が自ら時間をかけてでも検討し、その地域にふさわしい持続可能なプランを実施できるよう、補助金の出し方も一度思い切って工夫してみてはどうだろう。

 かつて竹下登内閣が実施したふるさと創生事業で全自治体に交付された1億円。当時その使途についてさまざまな議論が起きた。福島県南部の矢祭町では1億円を財源に国際化時代の人材育成を目的に町内の公立中学3年生全員を修学旅行で豪州に送った。もちろん前例もないため批判や不安の声が多く、実施まで難航したそうだが、この修学旅行をきっかけに英語や海外に興味を持つ生徒が増え、海外との仕事に就いた者もいるという。自分の夢や将来を考える際に選択の幅が広がったなど多くの卒業生から素晴らしい体験だったと感想が寄せられている。

 最初に修学旅行に参加した生徒はすでに40歳を超え、子供たちに海外でのかけがえのない体験を伝えている。町政に対する理解や地元への愛着心にもつながった。私もこの修学旅行の手配と添乗を担当したことがあり、旅行中の生徒たちの熱いまなざしと成長ぶりに感銘を受けたことを覚えている。

 1700余りの自治体が東京の着想だけでなく地域の発意で活性化への取り組みができるよう、応援・後押しすることを考えていきたい。

最明仁●日本観光振興協会理事長。JR東日本で主に鉄道営業、旅行業、観光事業に従事。JNTOシドニー事務所、JR東日本訪日旅行手配センター所長。新潟支社営業部長、本社観光戦略室長、ニューヨーク事務所長、国際事業本部長等を経て23年6月より現職。

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