『赤と青のガウン オックスフォード留学記』 プリンセスの体験談がめっぽう面白い

2025.02.03 00:00

彬子女王著/PHP研究所刊/1320円

 特にヨーロピアンのゲストとの会話では、ちょいちょい皇室の話が出てくる。「エンペラーは京都御所にも来るの?」「今日は彼の誕生日でしょう?」――考えてみれば1000年以上血統が続き、いまも大事にされている王族・皇族は世界的にも珍しく、特に王室が身近な国が多いヨーロピアンからしたら興味をそそられる存在なのかも。

 その人生や公務についてふんわりとは知っているものの、日々の詳細は想像するのも難しい……と思っていたら、こんな本が昨年ベストセラーとなった。

 著者は「ヒゲの殿下」寛仁親王の長女で、大正天皇のひ孫。女性皇族として初めてオックスフォード大学で博士号を取得したのが話題となり、現在は公務をこなされつつ京都の大学で教鞭をとられている。英国での学位取得までの歩みや留学生活の悲喜こもごもを綴った本作は10年近く前に単行本が出版された古めの作品だが、「プリンセスの日常が面白すぎる」という読者のSNS投稿がバズったのをきっかけに大ヒットに化けた一冊だ。

 「あなたほんとうにプリンセスなの?」と外交旅券を怪しまれたり、エリザベス女王にお茶に招かれた時、お茶を入れるのはどっちの役目なのか困惑したり(結局女王が入れた)、皇族あるある(なのかな?)の話がまずめっぽう面白い。加えて留学生活や英国の描写も興味深いし、美術ファンとしては著者の研究テーマ・日本美術にまつわるエピソードにもワクワク。

 多分NGワードも無数にある中で選び抜かれた言葉で描写される文章は簡潔で気取らず、ご本人の聡明さとお人柄をしのばせる。日本一“実家が太い”(←大失礼)御一家の教育環境や暮らしはこんなんなのかー、と野次馬気分も満たされる、楽しい読書体験だ。

山田静●女子旅を元気にしたいと1999年に結成した「ひとり旅活性化委員会」主宰。旅の編集者・ライターとして、『決定版女ひとり旅読本』『女子バンコク』(双葉社)など企画編集多数。最新刊に『旅の賢人たちがつくった 女子ひとり海外旅行最強ナビ』(辰巳出版)。京都の小さな旅館「京町家 楽遊 堀川五条」「京町家 楽遊 仏光寺東町」の運営も担当。

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