なにをいまさら

2025.01.27 08:00

 昨年末に発表された内閣府の「地方創生2.0の基本的な考え方」を読みながら新年を迎えた。紅白歌合戦に各地の初詣の模様、そして駅伝と一見何の変化もない年末年始の光景を映し出すテレビ。わたしたちはいつも毎年繰り返されるものを見ながらそれが平穏の象徴と思い込むことに慣れてきた感がある。新年のトップの挨拶の多くも「今年は変革の年」が毎年繰り返されるデジャブ感が続く。現実にはこの10年の間に日本という国はその姿を大きく変えた。じわじわ、ではなく極めてドラスティックに。地方を歩いていて感じる何ともいえない無力感。駅も駅前も、町中も。多くの地域はわずか10年前の記憶とは違い、とにかく寂れている。その変化にどのくらいきちんと気づけているだろうか。

 「地方創生2.0の基本的な考え方」は14年に制定された「まち・ひと・しごと創生法」を皮切りにこの10年、ある意味流行語にまでなった地方創生政策を総括し、今後の道筋を示すものだ。なかでも「地方創生の取組の必要性」を挙げた後に「これまでの取組の反省」の章を立て、多くの項目でこの10年間の施策への反省の弁が述べられていることは特筆に値する。最近でこそ政策にもPDCAサイクルが重要視されるようにはなったが、ここまで子細かつ辛辣に反省が連なるものはあまり見たことがない。

 「人口減少がもたらす影響・課題に対する認識が十分に浸透しなかったのではないか」「人口減少を前提とした、地域の担い手の育成・確保や労働生産性の向上、生活基盤の確保などへの対応が不十分だったのではないか」。誰もが認識しているはずなのに直視しなかった人口減少と地方から都市(ほとんど東京)への人口転移などについて、正面から切り込んだ反省が続く。産官学金労言の「意見を聞く」にとどまり、「議論」に至らなかった、ともある。

 私の仕事でいえばこの10年は東日本大震災からの復興と重なる。「観光の力で地域を元気に」をスローガンに掲げ、地方が観光でその活力を取り戻す礎を築いてきたはずなのに。現実には「○○で地方を元気に」と耳障り良い言葉とは裏腹に、人口減少という地域の根本課題から目を背け、その場限りの技術の提供や一度限りのイベントなど、予算が尽きればそれで終わりの実証実験の山を築くだけに過ぎない取り組みも多数あった。

 さらにはコロナ禍で他国と比べても極めてネガティブなマインドセットに陥り結婚も出産もトレンドに輪をかけて減った。昨年の年間出生者数は70万人を割り込む一方、現在の75歳の人口(75歳以上ではない)は約200万人。地方ほど高齢者と子供の人口偏差が大きいことを考えると、これが危機でなくて何なのだろう。サステナブルも最近誰もが唱える流行語だが、地域に住みそこで仕事をする人がいないことには地域は持続しない。その先にあるのは地方を持続させないという究極の選択だ。

 何(なに)をいまさら、とも思うのだが、少なくともこの方針が誰もが現実を正面から直視するきっかけくらいにはなるといい。言葉だけの地方創生に一石を投じ、地方を含めた日本の未来の根本に迫る一筋の光。「インバウンドの増加」など、地方にとって追い風として観光の役割は多数掲げられている。いまはまだビギナーの多い訪日客が、後にネクストデスティネーションとして地方を選択する日はやがて来るだろうとは思う。かつてロンドン・パリ・ローマが定番だった日本人の欧州ツアーが影を潜め、新聞広告に踊るのはクロアチアや南イタリアや北欧であるのと同様に。しかしその日まで日本の地方は持続できるのだろうか。時間との勝負だ。

高橋敦司●JR東日本びゅうツーリズム&セールス代表取締役社長。1989年東日本旅客鉄道(JR東日本)入社。2009年びゅうトラベルサービス社長、13年JR東日本営業部次長、15年同担当部長、17年ジェイアール東日本企画常務取締役チーフ・デジタル・オフィサーなどを歴任。24年6月から現職。

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