観光業界キーパーソンに聞くリーダー論
2025.01.06 00:00
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ツーリズム産業を牽引するにふさわしいのは果たしてどの業態なのか。トラベルジャーナルが旅行業、宿泊業、運輸業、DMO、観光関連団体、大学など、観光業界のキーパーソンに実施したアンケートから主な回答を紹介する。特集は週刊トラベルジャーナル25年1月6・13日号に掲載。
「ツーリズム産業はコロナ禍を経てイベントリスクに弱い産業であると考えられており、若い労働力確保の観点からの産業としての将来性を提示し、データ集約を進め、それを活用した産業全体のDX化を推進し、関係業者の連携・共創を促進することが必要。これを牽引していくリーダー役を担う主体が望まれる。コーディネート能力を有する旅行業界もそうした動きの中で一定の役割を果たし得る」
「ツーリズム産業は日本の既存の基幹産業に比べ新しい産業であることもあり、産業内の意見の取りまとめや利害調整がまだ十分でない。産業全体としての意思を外に向けてきちんと示し、今後さらに産業を発展させるためには強力なリーダーシップが必要」
「ツーリズム産業は多種多様な分野があることでまとまりがつかなくなっており、このことが日本の観光における競争力を削いでいる。これらの業界について総合的に精通している人財や組織が、観光分野における産官学を横断的に統合することが絶対に必要」
「多様な業態で構成されているが一つ一つが独立した業態でもあり、それぞれの業態で課題の共有や解決をしていくべき。以前は旅行会社がその役割を担っていた部分もあるが、すべてをまとめるのは難しい」
「従来(戦後)、日本では大手の総合旅行会社がツーリズム産業を牽引していた。(多様な業態に対し、旅行会社支配が定着し、悪い面もあったが)政策決定などの過程で産業としてまとめることができたことは有効だった。旅行会社がその存在感を失い、役割を果たせなくなっている。メディア受けする個社の経営者の発信力だけでは産業全体の課題や必要な政策を社会に訴えることはできない」
「観光業界は宿泊、交通、飲食、エンターテイメントなど多岐にわたる要素が絡みあっており、それぞれが独自の課題や強みを持っている。こうした多様な業態を統合し、観光業界全体の成長を促進するには、変化に迅速かつ柔軟に対応できるだけでなく、明確なビジョンを持ち業界全体を見渡せるリーダーが必要」
「旅行会社、OTAは仲介業における立場的な制約があるため、最新技術への理解と適用能力・データ分析・活用能力・イノベーション創出力・プラットフォーム構築力等に秀でた決済・通貨、情報・ITサービスがリーダーを担うべき。加えて、リアルな観光現場への理解不足や観光産業全体を俯瞰する視点を補う意味で、旅行会社やOTAが強みを生かしながら協調することが望ましい。伝統的な観光産業のノウハウとデジタル技術の融合をイノベーション力をもって実現していくことが肝要」
「ツーリズム産業には古い習慣や手法、考え方が残っている。それを刷新するためのニューリーダーの存在は必要かもしれないが、現実的に考えれば外圧のようなものによって刷新されるのではないか。新しいというより異次元の考え方や手法が必要で、異業種からの参入によってなされないと業界内部からは無理」
「観光に関連する産業は裾野が広くジャンルも多種多様なため、それぞれは一生懸命に活動していても一体感がなく、向かうべき方向が微妙にずれている感覚がある。活動のベクトルを同じ方向に合わせるといま以上の波及効果が期待できるので、大きな意味での観光という視点からの交通整理が必要」
「観光を観光産業の当事者だけが語るだけでは永遠に観光の課題は解決しない。観光立国推進閣僚会議も当初の熱量がない。熱量のあるリーダーを求む」
「単体の業種が牽引するより、それを横断的にコーディネートして戦略を立て実行できる人・業態が必要。その意味で既存の業態では無理」
「リーダーは必要と考えるが、ツーリズム産業はどの業種も大小さまざまな慣例があり、変化への対応が遅くなる。よって業界内部の企業や人財でリーダーシップを発揮するのは難しい。業界外の力は不可欠」
「そもそも観光は多種多様な企業によって成り立っている。特定分野の産業のリーダー的存在がなぜ必要なのか、どのような役割を果たせるのかが不明なため、必ずしも必要だとは考えない」
「観光産業のリーダー的存在が必要だとするならば、それは観光行政(DMOなどの公的団体含む)の役割ではないか。ただし、旅行者、地域社会、事業者の三者三様の視点を知り尽くした専門家でなければならない」
「DMOが集客からマーケティングまで地域をリードすべき。しかし日本の現状では予算事業色が強く難しい。アナログな考えだが、地域に鉄道や航空路線を持つ鉄道や航空会社が路線存続のための利用者維持・増加を含めて国内外のツーリズムを牽引するのがいい。国や地域に路線を持つ航空・鉄道はコンサルのように予算だけ獲得して逃げられない」
「既存の旅行業法や業界団体の枠組みの中だけをツーリズム産業ととらえずに、人々の旅=移動に関わるすべてのプレーヤーも含めて産業領域を広義に再定義してほしい。そのうえでパーソナライズ化された情報発信や有形無形の有休資産の活用、ストレスフリーな商材の手配を可能とする事業者が主力なプレーヤーとなるべき」
「VUCAの時代にツーリズム産業、特に旅行産業においても先行きが不透明で向かうべき方向性が見いだせない。未来を指し示し、自らが率いる企業を変革し、業界を牽引するリーダーの出現により産業が再活性化されることが期待される」
「ツーリズム産業の裾野の拡大に伴い、さまざまなステークホルダーが部分最適で物事を考えることが多くなる可能性がある。そのため、地域と日本全体、受け入れ側と市場、国際競争を含めた世界の動向などを業界を横断して考え、牽引していく存在はいままで以上に不可欠」
「そもそも他の産業との関連包括が大きいため、旅行業がそのすべてという日本だけの誤った認識を早期に払拭する存在が必要」
「観光地域づくりの実効性を高めていくには、行政、DMO、商工会議所等、関係者の役割を明確化することが重要。役割の1つとして、地域の観光戦略やビジョン作成にあたり意思決定を図るリーダーの存在は必要」
「国内需要が構造的に縮小する未来が決まっている以上、国際市場で力を発揮できる業態に期待する。中でも日本らしさ、日本文化の強みを生かした分野で理解される業態が望ましい」
「DMOがリーダーシップをとり、全体最適化してくことが理想。地域のDMOにその力がない場合、他の機関がリーダーとなるケースがあってもよい」
「特定の業態がリーダーとなるべきというのは違和感がある。時代の状況によって、業種・業態の浮き沈みがある。取引上の強い立場にある業界、従事者数の多い業界がリーダーになるのかもしれないが、既存の利害関係にとらわれて、世界や時代の流れに後れを取ってしまうことが懸念される」
「さまざまな業種・業態が混合している難しさがあるとはいえ、旅行会社グループだけ見ても、利益の享受とリスク管理に大きなギャップが見受けられる。個社のことだけを案じる時代ではない。経済同友会のような提案する組織も存在せず、団体はいくつかあるものの、それが相互に機能していない。それらを束ねて、効果的に動くには、ひとつ高い視点の欠如が残念」
「多様な業態で構成されているからこそ、新しい発想や自由競争を大切にするためにもカリスマ的なリーダーの存在はなくてもよい。時代の流れに沿い、ダイバーシティにもサステナブルにも適合するリーダーが多く存在し切磋琢磨していくのがよい」
「業態の壁を越え、官民の壁を越え、地域の壁、国境の壁を越えるリーダーは不可欠」
「ツーリズム産業のリーダーは同じパーパスの下に集まる多様なセクターのトップたちの緩やかな連携組織となるのではないか。拠りどころとなる事務局機能はそのためだけに努力できる独立した中間支援組織が担うことが望ましい」
「すでに観光庁がリーダー的存在を担っているのではないか」
「日本のツーリズムが世界で競争優位性を発揮できるよう、あるべき姿・ビジョンをつくり、政治に働きかけ、ルールを変えていく役割を担う組織と、ビジョン達成に向けて行動し続けるリーダー群を官民でつくり上げていく必要がある」
「単に政府との関係維持に力を注ぐのではなく、自らのビジネス環境を整備し、競争力向上に寄与するような教育振興策やインフラ整備などの政策提言を積極的に行う。同時に、幅広い市民層に対してツーリズム産業の重要性を知ってもらうためのさまざまな施策を実行することが求められる」
【あわせて読みたい】ツーリズムのリーダー論 誰が産業界を牽引するのか
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