ツーリズムのリーダー論 誰が産業界を牽引するのか
2025.01.06 00:00
ツーリズム産業を牽引するリーダーの不在が指摘されている。多様な業態で構成されるツーリズムの裾野は幅広く、特定の業態がリーダーシップを発揮しにくい特性はある。一方で日本経済の数少ない成長分野として存在感を高めるいま、産業界全体をリードする業態の待望論は根強い。ツーリズム産業のリーダー像について考える。
ツーリズム産業のリーダー像を探るため、本誌ではツーリズム産業のキーパーソンにアンケート調査を実施。果たしてツーリズム産業にリーダーとなる業態は必要なのか、必要だとすればどのようなリーダー像が望まれるのかを尋ねた。
多くの産業には、時代ごとにリーダー業態が存在している。日本の製造業では、繊維や鉄鋼に始まり造船・重工業から家電を経て自動車へリーダー業態が変遷した。流通・小売業では百貨店からスーパー、そして専門店やコンビニへとリーディング業態が変化している。またエネルギー産業では石炭から石油へ、そして再生エネルギー(あるいは原子力の復活)へと主役が変わりつつある。
その産業のリーダーとなる業態は変わっていくのが常である。リーダー業態が時代を牽引し、バトンを引き継ぐ基盤をつくることで次代のリーダーの出現を促しているのも事実だ。
そういう視点に立った時、日本のツーリズム産業のリーダー像はどのような姿の業態になるのだろうか。アンケート結果を見てみよう。
まず、多様な業種で構成されるツーリズム産業を牽引するリーダーの必要性について尋ねた。「必要」とする回答が71.1%と多数を占める。「観光産業は多様な業態で構成されるからこそ、時代の進化を察知してツーリズム産業としてのビジョンを示し、それを踏まえて構成する各業界(旅行・宿泊・交通・小売など)の連携を促進する取り組みの主体が必要」(JATA〔日本旅行業協会〕・蝦名邦晴理事長)や、「多岐にわたる要素が絡み合い、独自の課題と強みを持つ業界だけに、多様な業態を統合し、観光業界全体の成長を促進するために業界全体を見渡せるリーダーが求められる」(ベルトラ・二木渉代表取締役社長兼CEO)といった意見が典型的だ。
「ツーリズム産業は既存の基幹産業に比べ新しい産業であることもあり、産業内の意見の取りまとめや利害調整が十分でない。産業全体としての意思を外に向けてきちんと示し、今後さらに産業を発展させるためには強力なリーダーシップが必要」(読売旅行・坂元隆代表取締役会長)のほか、「相反する利害関係を超えて業界の生産性向上・魅力向上に向けて牽引できる存在が必要。ステークホルダーに対して公平・公正な立場で適正な価格転嫁への理解を求めるのは個社ごともしくは個社同士で交渉することは難しいため」(旅行会社)といった必要論もあった。
また、自動車業界にトヨタがあるように産業全体を牽引するリーダー的企業があるのが「自然な流れ」としたうえで「個社のことだけを案じる時代ではない。経済同友会のような提案する組織も存在せず、団体はいくつかあるものの、相互にも機能していないように感じる」(BtoBプラットフォーム)という声もあった。
日本国際観光学会の崎本武志会長(江戸川大学教授)も国際競争力の観点から「ツーリズム産業は多種多様な分野があることでまとまりがつかなくなっており、日本の観光競争力を削いでいる。これらの業界に総合的に精通している人財や組織が、観光分野における産官学を横断的に統合することが絶対に必要」とリーダー不在を嘆く。
一方、リーダーとなる業態はなくてよいという意見も少数ながら見られた。日本橋夢屋の清宮学代表取締役社長は「ツーリズム産業は多様な業態で構成されているが一つ一つが独立した業態でもあり、それぞれの業態で課題の共有や解決をしていくべき。以前は旅行会社がその役割を担っていた部分もあると思うがすべてをまとめることは難しい」としている。
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