観光業界キーパーソンの24年回顧と展望③
2024.12.23 00:00
トラベルジャーナルが観光業界のキーパーソンに実施した「24年のニュースランキング」アンケートから、自由記述欄の回答を紹介する。ニュースランキングの結果は週刊トラベルジャーナル24年12月23・30日号で。
「MICE産業が学術や産業の国際競争力を強化し、地域の活性化や生産性向上の貢献することが世界の常識となるが、わが国では一般観光産業に比してMICEが重要産業との認識が官民ともに薄い。業界全体としてメディア対応など国民への啓蒙活動への取り組みに一層の努力が必要」
「情報テクノロジーのさらなる発展で中間業者の生存領域がますます狭まる。サプライヤーの直販も進んでいく。今後はサプライヤー対オンライン中間業者のシェア獲得競争になる。インバウンドとアウトバウンドは表裏一体。結局為替レート次第だ。一般的なレートのみならず、PPP(購買力平価)での評価が重要になる」
「インバウンドの急回復は大きなニュースだが、人数増より消費額増加のほうが国の目指しているところに沿っている。対照的に海外旅行の伸び悩みは深刻。円安の影響も見逃せない。若者が海外旅行に行かない2大理由が費用と治安への不安である。ここをブレークスルーしないと海外旅行の復活は簡単ではない。コロナ禍での産業外への人材の流出、急激な需要回復、時間外労働規制などにより人材不足は産業の発展において大きな課題。その結果の人材争奪戦である」
「世界の観光市場回復にもかからず、日本の旅行業界の取扱高の推移を見ると、コロナ禍以前から大きく減少したまま、復活する兆候も見られない。ジャパントラベルアワードに見るような個々の旅行商品に各社の工夫は見られるものの、経営レベルとしては社会を変革する志向性を持つ強いメッセージが伝わってこないことが残念」
「賃金をはじめとする労働条件、ハラスメント対応等、労働環境の改善が進んだ点は大きい。今後も労働環境の改善によって、観光業界の魅力をさらに高めていくことが求められている」
「旅行のウェブ化・FIT化が急速に進むなど、お客さまの購買行動が変化するなかで、旅を便利にするさまざまなデジタルサービスが発展している。一方で旅行会社の存在感や価値が低下している現状に強い危機感を抱く。旅行会社の専門性や安心感とデジタルを組み合わせ、お客さまにどのような価値を提供できるのか。単なる流通業にとどまらない新たな役割を確立しないと、旅行会社が生き残っていくことは困難」
「観光・旅行産業は平和産業といわれるが、戦争、災害や政治による影響を受けることが以前より多い。経営するうえでリスク回避やレジリエンス力が今後より求められていく。繁忙期の業務の平準化や雇用、賃金など人材の定着に向けた課題に正面から取り組んでいく必要がある」
「オーバーツーリズムなどの課題が顕著になった。一方で海外旅行が19年比約6割にとどまり、来年以降の拡大に向けて課題が残った。北陸新幹線延伸という明るいニュースがあったものの、年始から能登半島地震で観光関連事業者も未だ厳しい状況にあり、旅行業界として息の長い支援をしていきたい」
「いろいろな意味で24年は日本の観光関係業界の分岐点。ライドシェアや外資ブランドによるホテルのリブランド状況を見ると、日本独自のビジネスのやり方をしていくのか、世界標準の流れに合わせていくのか、判断を迫られる。人材獲得を見ても普通に外国人の人材を観光関係業界で多く見る。カスハラ対応や働き方を見ても、従来とはあり方が大きく変わっていく兆候を感じた」
「日本人の海外旅行が伸びない理由の1つとして、円安以外にも日本国内の旅行の素晴らしさが日本人に見直されたという背景もあるのではないか。自分もコロナ禍で海外への渡航制限があった時に国内各地を旅し、あらためてその多様性や新しい宿泊設備、食の魅力などに気付かされた」
「障害者差別解消法については、法律面での整備はありながら、ユニバーサルツーリズム関係の予算措置がまだまだ少な過ぎるのではないか」
「インバウンド好調に甘んじることなく、円安環境を差し引いた消費額向上や旅行者の質の向上の具現化を考えないと社会的支持が得られない。特に最近は宿泊・飲食費や不動産高騰など、すべてインバウンド増加のせいといったメディアの論調が多い(日本人の所得が上がらない方が問題だが)。観光が悪者ターゲットとなってしまいそうなので早めに手を打った方がよい」
「地震により甚大な被害を受けた能登地方では、豪雨による災害も重なり“二重被災”とも呼ばれる厳しい状況が続く。このことは旅行業界のみならず、全国レベルで影響をもたらし、観光業界も復旧支援に取り組む必要がある。また、公取委による旅行大手5社の談合認定事案は、コンプライアンスの徹底に常に努めていく重要性を肝に銘じた1年となった。今後はサステナブル観光や地元や文化コミュニティーと深くかかわる旅行、さらには地域活性化に寄与する観光DXの取り組みなど、従来の旅行業の延長線上ではない新たな取り組みを一層強化していくことが必要」
「日本人のパスポート取得率の低さに衝撃を受けた。先日の日経にも『日本人が海外に向かうには』のタイトルで、識者がさまざまな見解を述べていた。社会的にも大きな事象として認識されている。ただ、論調的にはどうしても若者の海外離れに寄りがちになり、実際大きな理由の1つでもあるが、足元では全世代で海外志向が薄れているので、その状況も把握した上で、今後の方向性や問題解決の方法を考えていかなければならない」
「コロナ禍中に大きく取り上げられたオーバーツーリズム対策はほぼ皆無。さらにトラベラーのマナー問題に毅然と対応できる組織や体制の無力さに忸怩たる思いがよぎった。多くの業界関係者が杞憂する海外渡航回復の兆しも円安、中東の戦火拡大、人材・燃料不足等、悪化の一途で、観光立国としてのリーダーシップの欠如を痛感」
「産業におけるAIの活用。チャットボットのような目立ちやすい事例のみならず、旅行業における業務効率化などオペレーション面での活用を含め今後広くイノベーションを後押しするのでもっと意識を高めるべき。もう1つは旅行流通の変化。欧米ではOTAや旅行会社に頼らない消費者によるダイレクトブッキングのシェアが高まっている。こうした流れも国内では感度が低い」
「訪日外客過去最高に沸くなか、インバウンドのシェアが低い地方部では軒並みコロナ前の集客には届かず、人手不足や二次交通の問題もあいまって地域格差が顕著に現れている。そもそも目の前の需要に対処するのではなく、人の行かない地域へ人の流れを創るのがツーリズム産業の本懐ではないかと思うが、その視点が十分でない」
「海外旅行企画担当者にとっては古き良き時代の思い出を断ち切らないと生き残れないと実感。ITやAIの普及が進んでも海外旅行でのリアルな体験は超えられないはずという想いは心の奥底にしまいつつ新事業への取り組みに頭を悩ませた。観光庁がインバウンドにばかり注目するのも外国人の年間消費額が大きく寄与しているのは明白。いまや観光産業は自動車に続く産業に成長し、他業種からの参入も多く旅行業が大きく変革していることを現場レベルでも肌で感じられた」
「訪日客への二重価格をいち早く導入いただきたい。円高への対応は時間がかかるし、全企業が賃金改定できる体力があるとは思えない。二重価格はオーバーツーリズムやマナー問題への対応にも一役買えるので早期の制度設計に注目したい」
「インバウンド市場にも課題が多い。持続可能、地方誘客、消費喚起を実現するため、制度・機運・人材など多彩な角度からボトルネック解消に向けた取り組みが必要。国内での競合に陥りつつあるが、ノウハウを共有し、官民・地域・同業異業の協業を深め、あらためてオールジャパンでの取り組みが必要」
「震災でスタートした24年。特に北陸、石川県は北陸新幹線延伸で観光支援加速の春を迎えるはずだったが、元旦の震災で暗転した。観光は戦争や災害、感染症にとても脆い。一方で震災とは関係なく訪日客が増え、利益も増えていくという、インバウンド依存(願望)が気分的に進んだ」
「能登半島大地震、想像を超える出来事に大きな衝撃を受けた。あの加賀屋も営業停止は信じられない。ツーリズムにとって厳しい1年になるのではと不安だった。しかし、インバウンド絶好調、課題はあるもののさらなる拡大を期待する。何とか海外旅行の復活をと思う日々」
【あわせて読みたい】24年回顧と展望① 24年回顧と展望② ニュースで振り返る2024年
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