地域社会の共感と支持

2024.12.23 08:00

 訪日外国人旅行者は24年に過去最高の3500万人を超えることが現実味を帯びてきた、京都や鎌倉、浅草などの人気観光地の特定スポットでは需要に輸送力が追いつかない路線バスや電車、路地での混雑が常態化し、地域の暮らしに影響が出て住民のストレスとなり、観光に対してネガティブな意識や報道につながっている。

 元来オーバーツーリズムは観光客過多による交通機関や施設の混雑に対する表現だったが、19年頃からシンクタンク等でマナー違反やゴミのポイ捨てなど旅行者の問題行動(観光公害)と同義にされてしまったことがマイナスに働き、足を引っ張ることになったと思う。本誌でも特集されたことで読者諸氏もさまざま持論をお持ちだろう。オーバーツーリズム問題は地域や観光産業の利益に軸足を置き過ぎて地域社会(住民)への配慮を欠いたことや、地域社会の共感を得ること、地域経済への波及効果の周知をおろそかにしてしまったことが招いた結果である。

 当協会では北米や欧州のDMOが集まる会議体に参加し、最近のトレンドや各地のDMOが抱える課題について意見交換するなど知見の獲得に努めている。米国のDMOは基本計画や戦略策定、KPI(重要業績評価指標)、KGI(重要目標達成指標)など数値目標を定めるに当たり、重視するのは地域の自治体や観光産業だけではなく、地域社会(住民)の声やニーズをくみ取ることである。DMOは計画作りの段階から数十人、時には100~200人のステークホルダーを集めてのワークショップや1対1のインタビューを積み重ねる。さらに観光地域診断ツールで自ら地域の課題抽出も行いながら戦略や数値目標を定め、地域社会のニーズに合致した広く理解を得られるものになっている。

 数値目標も例えばDMOのSNS閲覧数やウェブサイトのアクセス数などは地域のイメージは一時的に良くなるが、観光産業の持続可能な成長には貢献しにくいとされる。米国の多くのDMOでは旅マエ、旅ナカ、旅アトに旅行者の行動、感情、抱える問題点を時系列で整理、可視化するカスタマージャーニー手法を基礎に、来訪を期待する客層をデータに基づきできる限り細分化して想定する架空の顧客像(ペルソナ像)をターゲットに定め、限られた予算を効率的に使う。解像度の高い具体的な目標を設定し、キャンペーンなどの効果もしっかり測定している。

 キャンペーンやイベントの効果測定も日本ではDMO自体の経済効果を計測する動きが出ているが、個々の事業の効果測定までは及んでいない。米国のDMOは事業ごとに投資利益率(ROI)を求める動きが強まっていて、効果測定に特化したプラットフォームも開発されて多くのDMOなどが採用している。税収効果まで含めたイベントの効果測定を可能にしたものや、開発中だがウェブサイトの効果測定が可能なものもある。宿泊税などの使途の透明性を保ち、観光振興に効果的に使われているか、議員・地域住民からの厳しい目にも耐えうるものか、マーケティング効果に対するさまざまな疑念にも論理的に応えられるツールとなっている。

 持続可能な観光地域づくり、DMO運営を実現するためには、数値目標設定・計画策定の段階から地域社会を巻き込み、来訪者のカスタマージャーニーに基づいたKPI等の設定を目指すべきだ。来訪者を増やし、観光コンテンツの充実が地域社会にしっかりと経済波及効果をもたらしていることを示すのである。また、数値目標とともにDMOの各施策の効果測定をしっかりとしていくことが、地域社会からの支持をとりつけるために必要だろう。

最明仁●日本観光振興協会理事長。JR東日本で主に鉄道営業、旅行業、観光事業に従事。JNTOシドニー事務所、JR東日本訪日旅行手配センター所長。新潟支社営業部長、本社観光戦略室長、ニューヨーク事務所長、国際事業本部長等を経て23年6月より現職。

関連キーワード