ニュースで振り返る2024年 円安がもたらした正と負のインパクト
2024.12.23 00:00
戻ってきたはずの日常。しかし、目の前に広がるのは以前の日常とは違う、既視感のない世界。そんなことを感じさせられた観光・旅行業界の1年だったのではないか。安堵感と不安感が交錯した24年を1年間のニュースとともに振り返る。
ツーリズム産業のキーパーソンが選んだ24年の観光・旅行業界における最も重要な出来事の1位は「訪日客、過去最高の3500万人へ」(576点)だった。過去10年間で1位が500点台のロースコアとなったのは17年の「民泊新法成立」、19年の「英トーマスクックが経営破綻」の2回。1位のトピックだけが飛び抜けずにスコアが分散するのは、良くも悪くも世界が落ち着いていることを示しているのではないだろうか。有効回答数が年によって少しずつ異なるため単純比較はできないが、そんな受け止めが可能だと感じられる。実際にアンケート回答の中には「目玉となる話題性の高いトピックスがなかった」という声もあった。
1位がロースコアの年は2位との差も小さく、どの出来事も突出せずポイントを分け合っている形だが、24年はその点が違う。2位との差が192点もあるからだ。これは20年の438点差(1位は「新型コロナ流行」)、15年の307点差(1位は「訪日2000万人目前」)、21年の243点差(1位は「緊急事態宣言長引く」)に次いで大きい。むしろ激変の年にふさわしい点差だ。
しかし、24年のランキングには見逃せない特徴がもう1つあり、点差が開いたからといって1位が必ずしも突出していたとは言えそうにない。というのも、2位が「訪日外国人消費額、年間8兆円も視野に」(384点)で、1位と2位を合わせて訪日市場が好調という1枠でくくることも可能だからだ。
また3位は「海外旅行訴求も回復弱く6割台どまり」(370点)、4位は「円安加速、1ドル160円水準に悲鳴」(341点)であり、こちらも合わせて海外旅行不振でひとくくりにできそうだ。つまり、24年は訪日好調と海外旅行不振が2大トピックだったと受け止めることもできる。
さらにいえば、5位の「能登半島地震で観光産業にも影響」(273点)を挟んで、6位の「人材獲得競争が加速、賃金改定相次ぐ」(250点)に続き、7位には「時間外労働規制、ツアー手配に影響」(182点)が入っており、ともに人材・人手不足に関するトピックスとしてくくることができる。
そのように見ると、24年は年初の列島を襲った能登半島地震に始まり、訪日好調と対照的に海外旅行が不振にあえぎ、ツーリズム産業全体の問題として人材・人手不足が浮き彫りになった1年間だったと振り返ることができる。
アフターコロナの旅行需要は完全回復とはいかぬまでも回復傾向にあり、ツーリズムビジネスにも日常が戻って来つつある。ただ、以前とは何かが違う日常が定着しようとしている。訪日旅行と海外旅行の勢いの差は19年までにも見られたが、コロナ禍を境にここまでインとアウトの勢いに差が出るとは想像していなかった業界人が多かったのではないか。また、人材・人手不足がここまで深刻化するとも予想できなかったのではないか。それが以前の日常と戻ってきた新たな日常の差となって、違和感を感じさせているのではないだろうか。
アフターコロナの環境変化に翻弄されるツーリズム産業に奮起を促すコメントを寄せたのは、和歌山大学観光学部の廣岡裕一非常勤講師。編集部が挙げた30項目のニュースについて、「外部環境や行政などが行った施策の結果によるものが多く、観光産業の社会的イニシアチブの欠如を示している。業界が社会的に存在意義のあるものになっていくためには、主体的なイノベーションを興す気概が必要」と指摘する。このほか「ジャパントラベルアワードのような個々の旅行商品に各社の工夫は見られるものの、経営レベルで社会を変革する志向性を持つ強いメッセージが伝わってこないのが残念」といった声もあった。実際に当事者たる旅行会社の中からも、「旅行会社発信の出来事が少なく感じ、アグレッシブな取り組みができていなかったことを痛感した」と自省のコメントが寄せられた。
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