CO2削減とプライベートジェット

2024.12.09 00:00

 英BBCは富裕層がプライベートジェットをタクシーのように利用していると科学者たちが警告する研究論文を紹介した。研究では19~23年のスペイン・イビサ島へのレジャー旅行や、サッカーW杯、ドバイで開催された国連気候変動会議(COP28)への移動など、世界中のすべてのプライベートフライト1865万5789機を追跡してCO2排出量を算出、46%増加したことを明らかにした。

 研究チームによると、23年はプライベートジェット機により1560万トンのCO2が排出、ガソリン車370万台の年間排出量に相当するという。プライベートジェット機で1時間飛行すると一般人の1年間のCO2排出量を超える量が放出される。航空機によるCO2排出量は世界全体の4%で、プライベートジェットはその約1.8%だが、わずかな割合の層がプライベートジェット利用で中央アフリカ小都市1つ分以上のCO2を排出していると研究を主導したスウェーデンのリンネ大学・ステファン・ゴスリング教授は述べた。サッカー観戦のための1時間のフライトによるCO2排出量が、平均的な人間による1年間と同じとしたら、グローバルコミュニティーの基準からは外れている。

 プライベートジェット機を利用するのは通常、超富裕層と呼ばれ、世界の大人の人口の0.003%に当たる約25万6000人、平均1億2300万ドルを所有していると研究者は推定する。ある人物は23年にプライベートジェット機を169回利用し、推定2400トンのCO2を排出、1年間に571台のガソリン車を運転した場合に相当する。ただし、研究では特定の個人を非難する意図がないことを明示し個人名は挙げていない。

 航空輸送はエネルギーを大量に消費するがそれに関わる世界人口の比率は低く、CO2排出量は、航空機を頻繁に利用する層で約半分を占め、上級クラスではエコノミークラスの5~9倍といわれる。「10年後、人々は気候変動を止めるためにもっと多くのことをすべきだったと考えるだろう。そして誰もがCO2排出削減の役割を担うと主張するには特定の活動を削減し、まず上層部から取り組む必要がある」とゴスリング教授は語る。

 最近の国連報告書は、行動を起こさなければ今世紀中に世界は3.1度も気温が上昇する可能性があると指摘。すでに工業化以前のレベルより1.2度上昇している。そして、50年までに商業旅行による排出量は21年の2.5倍以上に増加すると予測される。しかし多くの科学者は、温室効果ガスの排出なしに航空機利用を増やすことができる従来の燃料に代わる明確な代替策があるとは考えていないという。

 国際航空運送協会(IATA)は50年までにカーボンゼロを達成するというコミットメントを発表している。10月、世界旅行ツーリズム協議会(WTTC)は旅行・観光セクターによる温室効果ガス排出量が大幅に減少し、経済貢献のペースを上回ると発表した。11月にはCOP29に合わせ、観光分野における初の閣僚級会合が開催されるなど観光セクターの気候変動への挑戦が続く。

小林裕和●國學院大學観光まちづくり学部教授。JTBで経営企画、訪日旅行専門会社設立、新規事業開発等を担当したほか、香港、オランダで海外勤務。退職後に現職に就く。博士(観光学)。専門は観光イノベーション、観光DX、持続可能性。観光庁委員等を歴任。相模女子大学大学院社会起業研究科特任教授。

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