奮闘する地銀 観光分野で増す存在感
2024.12.09 00:00
観光をてこにした地域課題の解決や地域経済活性化の領域で、地方銀行の動きが以前にも増して活発化している。段階的な銀行法の規制緩和が背景にあり、事業者マッチングやファンドを通じた出資にとどまらない。観光の主体的プレーヤーとして存在感を増す地方銀行が現れている。
日本全体が人口の減少と高齢化に直面するなか、政府は14年の「まち・ひと・しごと創生法」施行を機に地方創生への取り組みを強化している。地方経済の盛衰と運命を共にする地方銀行も危機感を強め、地方創生を経営の重要課題に位置付ける動きが広まった。10年代半ばからは地方創生部などを立ち上げる地方銀行が相次ぎ、観光振興を含む地域活性化への関与を深めていくことになる。この流れをさらに加速させたのが銀行法の段階的な規制緩和だ。
13年に傘下の投資専門会社の投資対象にまちづくりを目的とした地域活性化事業会社が加えられた。17年には銀行子会社の類型として銀行業高度化等会社が認められ、19年には高度化等会社に地域商社を含むことが金融庁の監督指針に明記された。そして21年の銀行法改正により、地銀は子会社を活用して幅広い業務へ参入できるようになった。つまり金融庁から銀行業高度化等会社に認められれば、子会社がさまざまな事業に携わることが可能になり、地域商社、観光、農業、人材紹介業、コンサル業、電力事業などの子会社が続々と設立されることになった。
大和総研によれば、地銀による投資専門会社や地域商社等を含む子会社設立は21年から2年連続で30社近くに達した。また地方銀行協会の調べでは、18年に8社だった地域商社の設立は21年に26社まで増えた。地銀が設立した地域商社の中には旅行業登録を持つたびまちゲート広島、DMO(観光地域づくり法人)のくまもとDMCも含まれる。
地銀が地域商社を設立するのは、幅広い事業を営めるからだ。特に人口減少が進む地域で経済活性化に取り組むためには、人流を増やす観光振興や特産物の販売拡大は即効性があり、事業内容に掲げる地域商社が多く見られる。
23年6月の監督指針の変更では、銀行業高度化等会社設立に向けた準備段階として、銀行本体やグループが実証実験として地域活性化業務を行うことが可能となった。これによって活動メニューはさらに幅を増した。こうしたなか、より深く観光・旅行事業に関わる事例が登場している。
福井銀行は100%出資の観光地域商社「ふくいヒトモノデザイン」を22年7月に設立し、同年9月に第2種旅行業に登録。旅行会社として観光事業に参入できる体制を整えた。主な狙いはインバウンド需要の取り込みだ。
23年の福井県の外国人延べ宿泊者数は6万4900人泊で全国46位、消費額は12億円で最下位だ。ふくいヒトモノデザインの小畑善敬代表取締役社長は「京都や大阪には多くの外国人旅行者がやって来ているが、福井県は出遅れてきた。しかし、伝統と文化の魅力にあふれ、県民幸福度も上位の福井には誘客のチャンスがあるはず」と話す。
福井市からの派遣人員1人を含む9人体制で運営する同社が設立から2年間で力を入れてきたのはBtoBだ。観光事業部の加藤太一部長は「海外旅行会社への販売や国内広域を取り扱うDMCに対して、ローカルDMCとして専門性を生かした商材を提供することを念頭に商品開発に取り組んできた」という。将来的には北陸全域へ面的な広がりを持つDMCを目指す構想もあるが、その前に点としての地域の商材を充実させる必要があると考えた。
最初に取り組んだのが、日本を代表する名刹、曹洞宗大本山永平寺とその周辺を訪ねるツアーの商品化だ。「禅プログラム」として考案したのは、門前の宿坊に泊まり、朝のお勤めや坐禅、精進料理、坐禅クッションの手作りを体験するだけでなく、農泊施設での農業体験、さらには老舗酒造でのガイドツアーとテイスティングを組み合わせた。各方面との調整だけでなく、住民への説明やクッションづくりで協力を仰いだ永平寺町繊維協会への根回し、交通手配を依頼した現地観光事業者との連携などに注力。地銀だからこその信頼とネットワークを生かした幅広い連携により実現した。
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