廃校へ行こう! 地域の思いが詰まった空間へ
2024.12.02 00:00
全国で増え続けている廃校。その校舎を地域の観光拠点として生まれ変わらせる事例が相次ぐ。廃校は活用次第で地域の資産として再び輝けるはずの特別な空間。ツーリズムに生かせる公算は大きい。
少子化により児童生徒数が減少し、全国で小・中・高校の廃校が増えている。文部科学省の調査によると12年度にはその数が年間約600校にまで増えた。02~20年度で見ると全国で毎年平均450校ほどが廃校になっている。しかも廃校数の増加は首都圏や東京も同様だ。東京でも02~20年度に322校もの廃校が生まれている。地方だけでなく都市部や都市近郊でも、もはや廃校は珍しくなく、廃校をどうするかは全国共通の問題といえる。
廃校後に使わなくなった校舎であっても、地域の人々の思い出が詰まっているだけに処理には慎重を要する。加えて建物を撤去するにしても維持するにしても解体費用や管理費として少なからぬ出費が発生するため、自治体は財源確保に頭を悩まさざるを得ない。そんないわば“負”動産化してしまった廃校を、貴重な地域の財産として再生しようという動きが生まれたのは当然の流れだ。
文科省も廃校の有効活用に向けて動いた。08年6月には公立学校施設の財産処分手続きに関する取扱通知を改正し、学校施設を学校以外の用途に転用する場合などに必要となる手続きを大幅に弾力化・簡素化した。例えば、学校施設などの財産を処分する場合には国庫補助金相当額の国庫納付が必要だったが、ほとんどの場合で不要になった。処分や転用には文科相の承認を受けることが原則だが、10年以上経過した学校施設を民間事業者や社会福祉法人、学校法人等に無償貸与や無償譲渡するなどの場合については報告で済ませることができるようにした。
さらに全国の廃校数が2年連続で400校を超えた10年には、文科省が「未来につなごう~みんなの廃校プロジェクト」をスタートした。プロジェクトでは廃校活用のアイデアや活用先を募集している自治体の情報と施設情報を集約し、文科省のホームページで公表することにより自治体側と活用希望者のマッチングを支援。全国各地の優れた活用事例の発信や廃校活用推進イベントの開催にも取り組んでいる。
その結果、21年時点で8580校ある廃校のうち施設が現存している廃校が7398施設で、そのうち74.1%となる5481施設がすでに何らかの形で活用されている状況だ。
しかし全国には未活用の廃校施設が全体の25.9%・1917施設も残る。このうち活用の用途が決まっていない廃校施設が19.2%・1424施設。活用の用途が決まっていない理由として最も多く挙げられるのは「建物が老朽化している」(46.2%)だが、「財源が確保できない」も14.6%を占める。
文科省の調べでは、活用方法は多い順に学校、社会体育施設、社会教育施設・文化施設、企業等の施設・創業支援施設などとなる。ツーリズムや交流人口創出につながる体験施設等としての活用は複数回答による集計でも全体の5%程度しかない。活用可能な廃校施設はまだまだ多く、観光や宿泊・滞在につながる活用方法も想定でき、アイデア次第で眠っている可能性を引き出せる。
文科省はみんなの廃校プロジェクトを通じて、廃校活用は維持管理費や公共施設の整備コストの縮減といった短期的な効果だけでなく、地域コミュニティーの維持・活性化や産業振興といったさまざまな効果が期待できることを自治体に訴え、活用を呼びかけている。
一方、企業等に対してはまとまったスペースの活用、教室ごとに仕切られた使い勝手の良い空間、静かな環境といったメリットの他にも、既存施設の活用による事業の早期着手やコストダウン、話題性といった元学校ならではのメリットを挙げて廃校の活用を呼びかけている。
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