国際標準とは何か
2024.11.25 08:00
観光の国際認証団体グリーン・デスティネーションズが実施した24年のアワードが発表され、日本から4地域が選ばれた。岩手県釜石市は前回のシルバー賞獲得からゴールド賞にランクアップ。昨年シルバー賞を獲得したニセコ町を合わせた5地域には高いハードルになると思うが、次はグローバル・サステナブル・ツーリズム協議会(GSTC)の定める持続可能な観光地の認証取得を目標にがんばってもらいたい。
トラベルジャーナル4月8日号特集「乱立するエコラベル」でもサステナブルツーリズム実現のために国際認証取得の意義や課題等について識者の示唆に富む寄稿を読むことができた。現在わが国の観光関係者はもっぱらこれらエコラベル認証への対応が国際標準化活動と捉えているようだ。
一方、世界の国際標準化、規格づくりの歴史や潮流を俯瞰すると、元々欧米で民間取引に必要な認証として活用された標準が1980年代以降は欧州の市場統合、WTO/TBT協定発効に伴い、特に欧州では官民で国際市場獲得の手段として活用されるようになった。さらに近年は、観光をはじめサービス・マネジメント分野への標準化の対象拡大に加え、第4次産業革命が加速するなかであらゆるモノやサービスをまたぐ業種横断的な標準化が進んでいる。
観光と関連する分野では国際標準化機構(ISO)の第228技術委員会(TC228)で標準化の議論が行われているが、議長としてリードしているのがスペイン標準化協会である。コロナ禍で課題となった感染症に対する安全な観光を確立するための国際規格開発に際し、スペイン国内標準を原案としてすり込もうとしているようだ。自国の規格や標準が国際標準と認められれば、その後の海外進出への効果は絶大だ。
TC228ではダイビング、観光案内所、アドベンチャーツーリズム、OTA、展示会・イベント、サステナブルツーリズムなどワーキンググループをつくって標準化に向けた議論を行っている。わが国では最近シェアリングサービスやホスピタリティー分野で「日本版〇〇」とうたい国際標準に日本独特のテイストを加えた標準が増えている。国内に限れば取り込みやすいかもしれないが、日本の観光産業がこの先海外に進出しようとする時に足かせにならないか心配だ。
もちろん日本のホスピタリティー、サービス・マネジメントは他国をしのぐレベルである。ただ、いくら優秀でも国際標準に合致したものでないと、輸出した時に相手国から排除されるリスクがある。特に日本のサービス品質は正しく測れていないことが多く、提供品質は高いものの国際競争力が発揮できない。私が関わった鉄道インフラの海外輸出でも、この国際基準、特に欧州基準をベースに作られたさまざまなルールに何度も足元をすくわれた。
欧州をはじめとする国際基準をそのまま導入するのでなく、ルール策定に日本が積極的に関与する交渉議論の場に参加することが必要だろう。さもないと日本のすばらしさ、強みが発揮されることなく国際基準に飲み込まれてしまう。
ISO/TC228では日本は正式メンバーではなくオブザーバーだ、国土交通関連では船舶、船員、海図、水路、航路標識の海事分野では世界をリードし、自動車、土木・建築、道路交通システム、鉄道はいままさに世界の標準化議論に積極的に関わって日本の規格のスペックインを目指している。ところが観光分野での日本のプレゼンスは残念ながらほとんどない。
インバウンド振興を図るため、持続可能な観光地づくりを目指すことと合わせてISOをはじめとする国際標準化議論にいまからでも参加すべきだ。
最明仁●日本観光振興協会理事長。JR東日本で主に鉄道営業、旅行業、観光事業に従事。JNTOシドニー事務所、JR東日本訪日旅行手配センター所長。新潟支社営業部長、本社観光戦略室長、ニューヨーク事務所長、国際事業本部長等を経て23年6月より現職。
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