訪日キーパーソンが語る未来に続く本物の価値
2024.11.11 00:00
世界中から多くの観光客が日本を目指すなか、日本のインバウンド関係者は果たして心に響く本物を提供できているのだろうか--。9月19日に開催されたインバウンドサミット2024では「本物はなにか?」がテーマとなった。同サミットから基調セッションの模様を採録する。
モデレーター
青木優氏 MATCHA代表取締役
パネリスト
山野智久氏 アソビュー代表執行役員CEO 代表取締役
矢ケ崎紀子氏 東京女子大学教授
鈴木貴典氏 国土交通省大臣官房審議官
多田稔子氏 田辺市熊野ツーリズムビューロー代表理事
本田俊介氏 ジェイエア代表取締役社長
青木 30年までに訪日外国人旅行者6000万人、外国人旅行消費額15兆円という政府目標に向かって動き出しています。あらためてこの目標の意味合いについて説明をお願いします。
鈴木 日本の人口は現在1億2000万人ですが、将来的に人口減少が避けられません。一方で世界の人口は現在80億人ですが遠からず100億人に達するとの予測もあります。また、世界の所得水準が上がり、とりわけアジア圏では大きな経済成長が見込まれます。そうしたなかでインバウンドの発展が期待されているわけで、国としても取り組みを強化し6000万人・15兆円という大目標を達成したいと考えています。15兆円という産業規模は現在の自動車産業に匹敵する規模で、インバウンド産業が日本経済を支える屋台骨になることを期待して設定した目標です。
青木 この目標をどのように受け止めていますか。
山野 日本の国内観光の消費額は現在約20兆円。2030年のインバウンド観光の消費額目標の15兆円より上です。しかし注目すべきは国内観光成長率が横ばいなのに対し、インバウンドは現在約8兆円の消費額があと数年で15兆円まで引き上げられようとしている点です。この成長率の高さと大きさが重要です。ビジネス分野では成長産業の導入期にどれだけベットできるかが鍵を握ります。インターネット分野がそうであったように、いち早くベットし、投資した者が成果を手にして大きなムーブメントを起こします。
矢ケ崎 目標達成に向けて国が主導する形ですが、今後のインバウンドの発展は民間企業や地域住民、行政を含めた連携こそ重要で、パートナーシップ時代の総力戦です。それができなければ国際競争の中で落ちていくしかない。連携の要となるのは観光はビジネスであるという点。まずは経済効果を得る。そのうえで社会的な効果や人々の暮らしへの良い影響が求められます。総力戦ですから、民間企業も地域住民も行政もそれぞれがリスクテイクも含む自分ごととしてインバウンドに取り組む必要があります。
山野 付け加えさせていただければ、連携には共通の目標が必要で、観光はビジネスですから共通目標は突き詰めていくと利益ということになります。つまり取り組みを評価する指標は利益であるべきです。その利益とは何か。地域住民にとっての利益、行政にとっての利益、それぞれ詰めていく必要がありますが体験価値を提供して対価を得るのが基本です。サービスだから、おもてなしだから無料などと曖昧にしない。重要なのは利益です。
多田 熊野の場合は外国人などほとんど目にしなかった地域に外国人を呼ぼうとしたわけで、地域に受け入れられるよう慎重に準備し環境整備に時間をかけました。地域住民には少なからず迷惑をかけるわけで、そのコントロールに気を使うとともに受益者を増やすことに努めました。経済的な受益がない場合でも何らかの形でプラスになることがあるよう工夫しました。DMCとしては23年度に着地型旅行業で8億7000万円の売り上げがありましたが、その97.9%が地域内で循環しました。宿泊、タクシー、食事、ガイド、雇用などを通じて地域が潤ったはずで、受益者を増やすという意味では一定の成果を上げました。
青木 航空会社としてはインバウンドにおける役割をどのように考えていますか。
本田 JALもANAも国内線の運航便数はコロナ禍前を上回りましたが国際線はまだ回復途上。JALは欧州7割、アジア8割の回復率で中期計画では国際線ネットワークの拡充を掲げています。また、各地域へ需要をつくる必要を感じており、地域農産物の海外販売や農泊のブランド化など地域と共に非航空事業に取り組んでいます。
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