効率化の代償
2024.11.11 08:00
CS放送でワープロ再生品を販売する企業のCMが流れていた。ワープロは03年に製造中止になっているので少なくとも20年以上前の製品だ。部品調達もメンテナンスも難しくなっていることもあるのか、販売価格も当時の数倍になっている。新聞やテレビに広告費を投じているということは相当のニーズがあるようだ。
実際にワープロを使っている人のレビューを調べてみると、過去から引き継いだデータや書式がパソコンに移せない、インターネットにつながらない機種のほうが機密漏洩対策になる、消費電力が少ないので乾電池でも長時間使える機種があるなど、なるほどそれなりに選ばれる理由があるようだ。
しかし、やはり一番は使いやすいということ。当然ながらワープロは日本語入力に特化して開発されていることからキー配置や操作方法が直感的で完成の域に達しているようなのだ。言われてみればその通りかもしれない。最新のパソコンソフトで文書を作っていてもソフトがアップデートされるたびに余分な機能が付加されたり、そのせいでこれまで使っていた機能がメニューの階層の奥に追いやられ探しにくくなっていたり、世界共通規格のせいで日本語を入力するには決して効率的でない入力を要求されたりすることがしばしばある。
文書を他人と交換する必要のある私には最新ソフトが必要になるが、世の中の都合に無理に合わせる必要のない人たちにとって、ワープロは確かに選択肢になり得る。そう理解する前の私は、ワープロを望む人たちはどうせ何かにつけ昔のほうが良かったと文句を言う、ノスタルジーや苦手意識を持つ高齢者に違いないと少々馬鹿にしていたのだが、ワープロの利点を理解して選択しているのであれば文句をいう筋合いはない。
そういえば、私もスマホと併用してガラケーを使っている。操作の簡単さを考えるとガラケーを手放すことはできない。スマホで通話しようとするとすぐに取れなかったり、通話中に加熱するし、話し声が周囲に応じて必要以上に大きくなったりもする。スマホが進化する過程で通話という本来の用途には向かない機械になったように感じるのだ。
そもそも生活やビジネスにおいて、音声で通話する頻度が減ったこともあるし、販売側にとっても開発費やアフターサービスを考えるとスマホに統一したほうが全体最適なことは理解できるので、遅かれ早かれガラケーは消え、再生ワープロのように特殊な市場に移行するのだろう。私自身がガラパゴス化しているといわれることになるのだろうが、そう思われたとしてもあえて不便になる選択をするのは嫌なのだ。
そう考えると、他にもいまの家電の操作やサービスについて、冷静に考えてみるとユーザー側が不便になっていることが多くなっていそうだ。例えば自動車内の操作ボタンにタッチパネルが増えているが、運転中の操作が危険になるなどマイナス面もあるのではないか。家電製品も物理ボタンが減ったため長押しや2回押しなど、説明書がなければ使えない機能が増えてはいないか。決済サービスやポイントカード、入場チケットがアプリに移行したことで利用者側の手間がかかり、手間取ることで窓口での対応時間も増えてはいないか。
世の中が効率化することは望むところではあるが、その代償として利用者への負担が増えてしまうのは本来の姿ではない。最新のものが最良のものとは限らないなかで、我慢しなければならないことと、それでも声を上げるべきことがせめぎ合う時代になったのかもしれない。
永山久徳●グローバルツーリズム経営研究所主任研究員。岡山県倉敷市出身。筑波大学大学院修了。東急不動産を経て下電ホテル入社。全旅連青年部長、日本旅館協会副会長、岡山県旅館組合理事長など歴任。メディアを活用した業界情報発信に注力する。石切ゆめ倶楽部(ホテルセイリュウ)監査役。
カテゴリ#コラム#新着記事
-
?>
-
肩書インフレという時代
?>
-
おひとりさま
?>
-
ゲームの中の住人
?>
-
CO2削減とプライベートジェット
?>
-
旅とメディア
?>
-
国際標準とは何か
?>
-
乗れば納得の航空ブランド
?>
-
あたりまえのこと
週刊トラベルジャーナル最新号
アクセスランキング
Ranking
-
旅行取扱額で19年超え企業、11社に拡大 10月実績 海外旅行は7割まで回復
-
キーワードで占う2025年 大阪・関西万博からグリーンウオッシュまで
-
「海外旅行は国の大きな課題」 JATA髙橋会長、回復へ政策要望
-
肩書インフレという時代
-
観光産業底上げに国際機関が重要 PATA日本支部、活動を再び積極化
-
『日経トレンディ2025年1月号 大予測2030-2050』 勝負を決めるのは人間
-
旅行業の倒産、24年は低水準 零細企業中心に22件 すべて消滅型
-
海外旅行市場、若年女性がけん引 25年の実施意向トップ 国内旅行でも顕著
-
ビッグホリデー、「旅行商社」を標榜 販売店との共栄へ新事業 まず介護タクシー旅行
-
OTOAが5年ぶり新年会 海外旅行回復や支払い改善促進に期待