修学旅行脱ピンチの糸口 無償化が投じる一石

2024.11.11 00:00

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修学旅行が窮地に立たされている。旅費が高騰し、学校は実施内容の見直しを余儀なくされている。旅行会社が取り扱いに及び腰となるケースもあるという。そんななか修学旅行を無償化する自治体が登場し、財源補填の議論が広がる可能性が出てきた。ピンチをチャンスに変えることはできるだろうか。

 修学旅行を取り巻く環境はかつてないほど厳しさを増している。最大の要因は旅行費用の高騰だ。これまでもじりじりと上昇してきたが、ここへ来て一気に加速している。22年のロシアによるウクライナ侵攻をきっかけに世界的な物価高騰が始まり、日本では円安も加わって物価高が止まらない。旺盛な訪日需要を背景に宿泊料金は上昇し続けている。貸切バスは下限運賃の引き上げや4月からの時間外労働の上限規制によるドライバー不足に拍車がかかり、ただでさえ少ないドライバーを奪い合った結果、人件費の増大を料金に反映せざるを得なくなった。

 関東地区公立中学校修学旅行委員会によると、国内修学旅行に費やした生徒1人当たりの平均金額は、19年度が6万3180円で、23年度は6万7880円。コロナ前と後で5000円近くも上がっている。しかし、これもぎりぎりに抑制された上がり幅である。というのも、公立学校は修学旅行費用の上限が自治体ごとに定められており、旅費の上昇に合わせて単純に引き上げてしまうと上限内には収まらない。修学旅行を実施するには、状況がどうあれ費用を上限内に収める必要があるからだ。

 実際には、修学旅行費用の実態と自治体が決めた上限の差分は、現地体験プログラムを削ったり、昼食など一部の食費を各自負担として旅費の枠外にするなど苦肉の策によって埋めているのが実態だ。このところの旅費高騰は、それでも追い付かないほどで、そうなると旅行会社にも対応の限界があり、限られた予算枠と厳しい仕入れ・手配状況のはざまで揺れ動いている。

 旅行費用の上限を守るため、教育の一環として実施される修学旅行の内容が劣化したのでは本末転倒であり、旅行実施に欠かせない旅行会社にしわ寄せが行き修学旅行離れにつながってしまうのも問題だ。そのため自治体も旅行費用の実態に合わせた上限規定の引き上げに取り組んではいる。

 日本修学旅行協会がまとめた自治体の実施基準によると、例えば宮城県は公立中学校と高校の旅費上限を23年度から2年連続で引き上げた。高校の海外修学旅行の場合、23年度に7000円引き上げて16万9000円とし、24年度も5000円引き上げ17万4000円とした。仙台市も2年連続で高校で引き上げを実施。同じ政令指定都市では、広島市が公立中学校に関し、23年度に1400円引き上げて5万5000円とし、24年度も3000円引き上げて5万8000円とした。2年連続の引き上げは多くはないものの、23年度もしくは24年度のいずれかに上限を引き上げた自治体は多数ある。

 上限の引き上げは、学校や旅行会社にとっては修学旅行を実施する上で当然ながらプラスに作用するが、一方で児童・生徒の保護者側にとっては負担増となって跳ね返るわけで、また別の問題を生じせてしまうことにもなりかねないのが修学旅行の難しさだ。このため、具体的な上限金額を明示せず「保護者の負担過重にならないよう配慮する」あるいは「保護者の負担の軽減を考慮し、目的達成の必要最小限の額になるよう配慮する」といった表現を用いている自治体もある。

 そのようななかで修学旅行関係者に希望を抱かせる動きが、東京都葛飾区が打ち出した措置だ。区立中学校の修学旅行費用を区が負担し、親の所得制限を設けずすべての生徒を対象に25年度から無償化する方針を明らかにした。

 葛飾区は子育てしやすく住みやすいまちづくりに取り組んでおり、区立学校の給食費完全無償化も実現した。25年4月からは子育てにかかる親の経済的負担を軽減する新たな施策として、幼稚園や認定こども園の保育無償化や学校で使う副教材の無償化も実施される。修学旅行の無償化もその一環だ。また林間学校や臨海学校などの移動教室費も区が負担する。

【続きは週刊トラベルジャーナル24年11月11日号で】

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