DMPの活用を

2024.10.21 08:00

 わが国が人口減少、少子高齢化に直面するなかで起こるだろう諸課題を洗い出し、国として取り組むべき政策と、地方自治体も住民サービスを持続可能な形で提供するプラットフォームであり続けるための基本的な考え方や検討の方向性について、総務相主催の自治体戦略2040構想研究会が18年に報告書をまとめた。さらに内閣府審議会の地方制度調査会が20年に答申「2040年頃から逆算し、顕在化する諸課題に対応するために必要な地方行政体制のあり方等」で提言を行った。

 この答申は大きく4つの項目で構成されており、インフラの更新、その担い手、支え手の減少が地域社会の持続性に関わるさまざまな課題を顕在化させると仮定。新しい技術の活用、地域や組織を超えた連携が必要として、長期的な視野に立って考えていくべきとした。

 中でも最も大きく取り上げられているのが地方行政のデジタル化だ。答申後、主に住民基本台帳や国民健康保険、戸籍などの住民サービス、行政手続きを時間や場所にとらわれず迅速、正確、円滑に進めるために必要な情報システムを共通化・標準化することが法律で定められた。実際には各自治体がシステム改良に割ける人員などの体力差で一律には進捗していないようだが、今後着実に情報システムの共通化・標準化が図られていくはずだ。

 観光分野もこの流れに乗り地域の観光情報の共通化・標準化が図られることを期待したい。特に他の自治体や地域との比較、県境を越えての移動を俯瞰して見ることができるようにするには基本データの入力項目、内容、仕様統一を図ることが必須だ。日本観光振興デジタルプラットフォーム推進コンソーシアムでは観光庁から支援を受け、多くの企業と共同で基本データの共通化・標準化を目指している。

 具体的には宿泊旅行統計や地域経済システム(RESAS)などの行政機関等が提供する統計データ、国内・インバウンド人流分析やキャッシュレス消費動向データ等メンバーが提供するビッグデータ、交通手段、満足度・再来訪意向等を蓄積・更新する全国観光DMP(データマネジメントプラットフォーム)などを可視化。地域の観光概況、訪問者の居住地、性別、予約のタイミングなどを分析、レポート化する高度化地域DMPを構築した。

 このDMPを活用することで自治体や地域の支出・要員面での負担を小さくし、業務の効率化や迅速化が図られる。その余力を他の事業に振り向けることもでき、既存事業もより高い成果を上げることができるだろう。

 ところが自治体の中には独自の基本データ構築にこだわり、せっかく整備されたプラットフォームが活用されないケースも見られる。もちろん、高度化地域DMPではそれぞれの地域が必要とする分析に資するよう出力データをカスタマイズすることも深掘りすることも可能である。自治体が発注する観光関係事業に応札を考える企業にもぜひ、基本データの共通化・標準化がすでに実現していることを意識してもらいたい。

 地方制度調査会の答申でも自治体の広域連携の必要性が指摘されている。日本政府観光局(JNTO)とともにインバウンドプロモーションを担う広域連携DMO、観光地域経営の確立を目指す地域連携DMOや地域DMOも横串を通すだけではなく、縦の連携がますます大切になってくる。自治体の枠にとらわれず地域の観光戦略を実現するために、全国観光DMPや高度化地域DMPなどのプラットフォームを積極的に活用して議論を深めてほしい。

最明仁●日本観光振興協会理事長。JR東日本で主に鉄道営業、旅行業、観光事業に従事。JNTOシドニー事務所、JR東日本訪日旅行手配センター所長。新潟支社営業部長、本社観光戦略室長、ニューヨーク事務所長、国際事業本部長等を経て23年6月より現職。

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