トラベルリテラシー 旅する力を育てよう

2024.10.14 00:00

(C)iStock.com/oatawa

コロナ禍が明けても停滞する海外旅行。市場衰退のシナリオが現実味を帯びている。外的要因の影響があるにしても、そもそも日本人の旅する力が衰えてしまっているのではないか。だからこそいま、旅に価値を見いだす力と旅を実現する力、その両方で形作られるトラベルリテラシーについて考えてみたい。

 日本人出国者数は23年はコロナ禍前の19年の半分に届かず、24年になっても直近(1~8月)の同期比では約6割までしか回復していない。終わらない円安傾向や燃油サーチャージの高騰といった外的要因はあるものの、需要の停滞がさらに長引けば事業者の減少などによって海外旅行業界を支えるインフラに問題が生じる事態も懸念される。そうなれば市場衰退への歯車がさらに進んでしまう悪循環に陥るかもしれない。

 そんななか、海外旅行需要回復を図りたいJATA(日本旅行業協会)が政府に対して新成人へのパスポートの無料配布を要請する意向であることがメディアで報じられると、世間から賛否が巻き起こった。反対派で目立つのは、「問題はパスポートがないことではなく若者に金がないこと」「パスポートは税金を使ってまで配布するものではない」「パスポートがあっても旅に出る目的がない」といった意見。それらを見ると、そもそも若者自身に何とか金をつくってでも海外旅行したいと思える動機が必要だし、若者を旅立たせることには価値があるという社会的なコンセンサスが重要なことが分かる。同時にそれらがいまの日本社会に欠けているとの現実も突き付けられる。この現実を変えていくには果たして何が必要なのか。

 そもそも人類には地球規模で移動しながら進化してきた歴史があり、旅は人間の本能ともいわれる。旅を科学する産学連携組織として20年に発足した旅と学びの協議会の勉強会で立命館アジア太平洋大学の出口治明学長(当時、現在は学長特命補佐)は「人はなぜ旅行に行くかと考えるのはあまり意味がない。もともとホモサピエンスはホモモビリタスであり、動き回る動物」と解説している。しかし現在の日本ではそうした人間と旅の関係のリアリティーが希薄化している。

 同時に日本人の旅する力も衰えているのではないか。例えば旅先の情報を集める力。インターネットで何でも情報が集められるようになり情報収集力は格段に上がっているはずだ。しかし日常的に流れてくる膨大な情報から、刺激的な情報に目を付けるのが情報を集める力と勘違いされてないか。そんな情報を追体験するだけの旅行こそがオーバーツーリズムを引き起こす遠因になっているという自覚がないまま、おかしな情報収集力にばかり磨きがかけられてはいないだろうか。

 あるいは旅行を実現する力。タイムパフォーマンスを最大化するスケジュールを組み立てることはできても、旅に付き物のトラブルに直面しながら臨機応変に対処し旅を前に進めていく力はむしろ低下しているのではないか。至れり尽くせり型のサービスが当たり前の環境で、自己責任を問われる場面も少なく、お客さまとして旅行することに慣れきってしまった日本人が旅行を実現する力に欠けてしまったとしても不思議はない。

 そして旅から学ぶ力。現地の人々と触れ合い、旅先を肌で感じ地域の成り立ちや文化について身をもって知る。そんな旅から学ぶ力を獲得することは裏を返せば自分を成長させたり変革したりする原動力を旅に求めることが可能になるということ。旅から学ぶ力さえあれば、旅をするほど人は成長し、より良く生きることができるようになる。

 いまの日本に欠けているのはこの旅から学ぶ力をはじめとする「旅する力」ではないだろうか。エイチの萬年良子取締役CSOはその旅する力を「トラベルリテラシー」と表現し、「旅は見聞、勉強、投資として真剣に向き合う」ものだと訴える。

【続きは週刊トラベルジャーナル24年10月14日号で】

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