スポットワーク

2024.10.14 08:00

 月曜から木曜まではうまく日程を調整しないと地方の温泉地への出張が難しくなった。盆明けや正月明け、閑散期ならなおさらだ。宿泊先が休館、飲食店が休業になるためで温泉地全体が休日という日も珍しくない。お客さまがいないからではなく、働き手がいないためだ。

 週末と平日の繁閑差が大きくなった事情もあり、平日は休館にして社員を休ませた方が効率がよい。社員も契約意識の高い外国人が主役となり、休日はしっかり取ってもらう必要性もある。お客さまが飲んでいる限り残業し続けたのは過去の話だ。すでに家族経営の宿では営業は週末だけというスタイルが主流になりつつある。

 一方で週末は一気に満室となり、社員だけでは人手が足りない。そこで活躍するのがスポットワーカーだ。空いた時間にスポットで仕事する。似たような働き方にギグワークがあり、フードデリバリーなどが当てはまるが個人への一時的な業務委託である。一方でスポットワークは契約して働くので労災対象となり最低賃金も保証される。これまでのパートタイムの細切れ版だ。

 おてつたびやタイミ―といったスポットワーカーのマッチング会社もいまや老舗、LINEやメルカリといったIT大手も参入し、2200万人もの登録者がいるという。本業での時間外労働は減る一方で労働者災害補償保険法も改正され、副業しやすい環境になったことも背景にある。

 その点、宿で人手が足りない週末は、休日となる企業で働くサラリーマンには温泉にも入れ、宿舎やまかないも提供される旅館でのスポットワークは魅力的だ。業務は洗い場やバッシングなど裏方がメイン。宿に聞くと「いろんな人がいる」と笑うが、スポットワーカーがいないと客室も埋められないうえ、時間外に観光もしてくれるので助かっている。

 スポットワークの学生版もある。ジャパン・ツーリズム・アワード審査員特別賞を受賞した「帰る旅」を実践する学生たちで、週末や連休を使い、第2のふるさとである雪国観光圏に帰っていく。5時間働けば無料で宿泊できるので、宿だけではなく農繁期の農業やイベントにも駆り出される。学生にとって、たとえ旅費が自費で報酬がなくても、社会交流は学びとなり新しい人脈ができるので大学では得られない貴重な経験である。

 スポットワーカー受け入れの一番の課題は宿舎だ。1人1室の提供が必要となるので満室となる日にそうした部屋のあることが前提となる。背に腹は代えられないと客室を提供する宿も少なくないが、計画的に補助金を活用してスポットワーカー用宿舎を準備する地域もある。

 コンビニでも店員にスポットワーカーが増えているというが完全無人化へ向けた過渡的措置だろう。さて、宿泊業はポストスポットワークの計画を考えているか。近い将来の労働人口激減時代の事業構想が求められている。

井門隆夫●國學院大學観光まちづくり学部教授。旅行会社と観光シンクタンクを経て、旅館業のイノベーションを支援する井門観光研究所を設立。関西国際大学、高崎経済大学地域政策学部を経て22年4月から現職。将来、旅館業を承継・起業したい人材の育成も行っている。

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