なぜできないの
2024.10.14 08:00
台湾南部の山岳リゾート・阿里山は日本の寺社仏閣にも使われるタイワンヒノキの自生地で、国家森林遊楽区(国立公園)に指定される観光地。一般的な台湾のイメージからは遠い2000m級の山が連なる山脈の麓には、年間約200万人の観光客が訪れる。
台湾へは頻繁に行くもののここまで行く機会はなかったが、この夏ついに訪れることができた。人気の高い、日本統治時代に木材を積み出し運搬するため敷設された阿里山森林鉄道の本線は台風の被害で運休中。新幹線の嘉義駅から観光客向けの路線バスで山を目指した。
いろは坂を思わせるヘアピンカーブの連続を上っていく。週末だからか車の数が大変多い。標高が高くなるにつれ茶畑が増えてくる。高地で栽培される茶は台湾烏龍茶のトップ銘柄だそうだ。出発から2時間半、阿里山バスターミナルへ到着。バスを降りるとテーマパークの駐車場入り口さながらのゲートがあり、車も歩行者もここで入場料を支払う。支払ったその先からが国家遊楽区。10分ほど歩くと森林鉄道の阿里山駅があり、その周辺にレストランや店舗、さらにその先にホテルエリアがある。駐車場は駅前のビジターゾーンに集約され、さらに標高の高い所にある高級ホテルへはシャトルバスで送迎される。駐車場は満杯、夏休み最後の週末とあって、どこもにぎやかだ。
予約したホテルはビジターゾーンからすぐ。チェックインの際、フロントで「明日のご来光列車の予約はしてあるか」と英語で尋ねられる。阿里山最大の観光スポットは阿里山駅から列車でさらに6㎞上った祝山駅から見る日の出。この日の出を見るために1日1本だけ列車が走る。本線は運休中だが支線が運行していることを確認し、あらかじめネットで予約しておいた。その旨を告げるとモーニングコールが3時半に鳴ることと、渡された朝食券はホテルではなく駅前のレストランで日の出を見た後に使えることを告げられる。
フロントには「明日の日の出は5:45」と「日の出列車出発は4:40」のボード。観察するとフロントではチェックインする客にすべからく同じ対応をしている。森林鉄道のウェブサイトでも同じ情報が前日にアップされる仕組みで、複数のホテルのフロントを覗いてみたが、みな同じ類いのボードが掲げられていた。
翌日、早朝の阿里山駅。日の出列車は定員制で満席になれば乗れない。「あと何席」の電光掲示板がカウントダウンされる出札窓口に行列する人もいるが、多くはネット予約か前日夕方に駅で売り出されたチケットを手にしているようだ。
暗闇の中をマッチ箱のような列車がうなりをあげて上っていく。約15分して標高2451m、台湾で最も標高の高い祝山駅に到着。1日1便しか列車の来ない割には立派すぎる駅の改札口を抜けるとそのまま正面が展望台。大勢の人とともにその瞬間を待つ。少し雲にさえぎられたが無事ご来光を拝むことができた。
再び列車で朝日を浴びながら山を下り、ウエルカムゾーンのレストランで朝食。その後は別の支線の列車に乗り、駅と駅の間に整備されたトレイルを歩く。木道などが整備され、案内板もきちんとしていて迷うことはない。バリアフリーの導線もあり、清潔な洗面所もかなりの頻度で現れる。なるほど、これが一級観光地の姿なのかとうなる。自然を保護し、客を入れるというのはこういう仕組みがあってこそだ。
ようやく山の片側だけ入山料を取り始めただけの富士山に、入場料を取るゲートはなく駐車場を起点に大渋滞の日本の国立公園。同じことがなぜできないのかとふと思う。
高橋敦司●JR東日本びゅうツーリズム&セールス代表取締役社長。1989年東日本旅客鉄道(JR東日本)入社。2009年びゅうトラベルサービス社長、13年JR東日本営業部次長、15年同担当部長、17年ジェイアール東日本企画常務取締役チーフ・デジタル・オフィサーなどを歴任。24年6月から現職。
カテゴリ#コラム#新着記事
週刊トラベルジャーナル最新号
アクセスランキング
Ranking
-
城崎温泉街をWHILLで移動 高齢化に対応 でこぼこ道も観光しやすく
-
COP初、観光業の気候対策宣言で歴史的節目 課題は行動 日本の出遅れ感指摘する声も
-
JTBの中間期、増収減益 非旅行事業の減少響く
-
交通空白地解消へ官民連携基盤 自治体・交通事業者と支援企業をマッチング
-
リゾートトラストと三菱商事、医療観光で合弁事業を検討
-
廃校へ行こう! 地域の思いが詰まった空間へ
-
新千歳も外国人入国者プラスに 主要空港の8月実績 韓国けん引
-
AI浸透で観光産業に3つの変革 企業関係管理でパーソナル化 流通は直取引に
-
沖縄県の宿泊税、都道府県で初の定率制に 26年度から2%で導入へ
-
福島・浪江で町の未来考える謎解き企画 異彩作家と連携