2024年10月7日 12:00 AM
世界に誇れる日本の文化を発信するクールジャパン戦略が本格化して12年。アニメなどコンテンツの人気が世界的に高まり、23年の国家ブランド指数で日本は1位となった。しかし、官民ファンドは巨額の赤字を抱える。政府は5年ぶりに戦略を刷新したが、クールジャパンはどこに向かうのか。
クールジャパンの社会現象が顕在化したのは2000年代の初めで、それからすでに20年以上が経過した。政府は現在、全省庁横断の成長戦略に位置付け、国を挙げて推進している。クールジャパン戦略はおそらく、多くの国民が考えているよりもはるかに規模が大きく、息も長い国家プロジェクトとなっている。
クールジャパンに注目が高まったのは02年ごろからだ。米政治・経済誌がソフトパワー特集の中で、日本をポップカルチャー分野で世界をリードする存在として紹介したことに端を発し、“クール”なイメージが広がっていった。
政府は第2次安倍政権下の12年から本腰を入れた。それ以前も内閣府や経済産業省に関連部署が設置されたが、12年にクールジャパン戦略担当大臣が置かれるようになり、フェーズが1段階上がった。当初は主に情報発信が強化されたのに対し、13年に官民ファンドの海外需要開拓支援機構(クールジャパン機構)が設立されると、クールジャパンの特色を生かした商品やサービスの海外需要と供給の拡大に軸足が移る。19年には内閣府の知的財産戦略本部が戦略を策定し、全省庁横断の体制で戦略を深化する段階に入ろうとしていた。
ところがコロナ禍で経済・社会情勢や人々のマインドが一変。対応する戦略が必要となり、政府は昨秋から具体的な戦略の再構築を模索してきた。今年6月に打ち出されたのが、5年ぶりに刷新した「新たなクールジャパン戦略」だ。
まず取り組みが本格化して以降の成果を振り返ると、コンテンツの海外展開は22年実績でゲーム2.8兆円、アニメ1.5兆円、漫画・出版0.3兆円、実写0.1兆円の計4.7兆円。10年間で3倍超に拡大した。確かなデータが存在せず集計に加えられていない音楽やライブ・エンターテインメントを加えれば、コンテンツ産業は鉄鋼産業や半導体産業に迫る巨大輸出産業と見なすことができる。さらにクールジャパンに触発される面もあるインバウンドは旅行消費額5.3兆円(23年)をもたらし、農林水産物の輸出も1.5兆円(同)に達する。
クールジャパン官民連携プラットフォーム(CJPF)のディレクターでアドバイザリーボードメンバーでもあるXPJPの渡邉賢一代表取締役は、12年間の成果について、全省庁横断でクールジャパンに取り組む体制ができたことや、日本の強みに関する調査・分析が進み研究基盤ができた点を挙げる。さらに「クールジャパンという言葉が社会に浸透して国民に意識されるようになり、国民運動的な大きな流れにつながるような前進があった」と分析する。
ただ、19年当時の戦略のままではコロナ禍後の環境変化に対応できない。新戦略は総論で「さらなる高みを目指して、クールジャパンをリブート(再起動)すべき時期が到来した」とうたっている。
環境の変化とは、訪日客の増大に呼応して日本のファン層が拡大・深化していること、最大の訪日動機にもなっている食文化の体験価値の上昇、コンテンツの世界人気のさらなる上昇である。また世界のあらゆる分野でデジタル化が進む半面、クールジャパン関連分野でのDXは遅れている。
戦略そのものや実施体制にも課題がある。戦略全体のKGI(重要目標達成指標)・KPI(重要業績評価指標)がなく、PDCAサイクルが回せない。体制面では、海外で人気の高いアニメや漫画とインバウンドや農林水産物輸出を関連付けたプロモーションの連携が不足し、海外展開に先立ち必要になる需要調査や市場分析機能の欠如が指摘されている。需要開拓に必要となる流通チャネルの確保も重要だ。
【続きは週刊トラベルジャーナル24年10月7日号で】[1]
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