継続してこそ
2024.09.30 08:00
インバウンドマーケティングに関する数字をいくつか見ていきたい。日本政府観光局(JNTO)がまとめた地方ブロック別の訪日外国人延べ宿泊者数の増減を見ると、23年はコロナ禍の影響を抜け出し、全国では19年比で628万人泊の減少となる。関東・近畿、それ以外の地域を分けると、関東・近畿は358万人泊の増加となる一方で、それ以外の地域は約980万人泊の減少となっている。
関東は東京五輪開催などの要素があったとはいえ、それ以外の地域の回復の遅れは見過ごせない。そのことはコロナ禍前の19年と15年の比較で課題がより鮮明になる。外国人延べ宿泊者数について、15年から19年の増加数に占める関東・近畿の増加数の割合は67%。11年から15年の同62%から拡大している。すなわち東京一極集中の是正を狙い15年から始まった地方創生は、結果としてその格差を縮めることができていないどころか、拡大を招いてしまっていることになる。
訪日外国人旅行者は18年に3000万人を超えたが、どれほどの地方がその恩恵を受けることができたのか。また、その恩恵を享受するべく効果的な施策を講ずることができていたのだろうか。
23年の大幅な減少は19年までの活動において十分な成果を上げられていないうえに、その後のコロナ禍の数年間にわたる活動の停滞が重なった結果ということになるだろう。表のA県は瀬戸内エリアにあるが15年から19年に大きな成果を上げている。増加数の全国に占める割合も大きく拡大した。しかし、19年から23年の落ち込みが著しく、これは全国の落ち込みを大きく上回る。
理由の1つにコロナ禍や国の地方のプロモーション予算に制限をかける方針を背景に、瀬戸内全体およびA県単独のプロモーション予算が大幅に減ぜられたことが挙げられる。コロナ禍における数年間、プロモーションを十分に行わなかったことで、19年までに高めた地域の需要を維持することができなかった。ただ、この点については24年以降の回復の程度についてあらためてレビューする必要はあるだろう。
表のB県は北陸エリアにあり、コロナ禍でも変わらずプロモーションを実施したケース。全国が回復し切らないなかで大きく増加している。コロナ禍に入る前の18年ごろから活動を本格化し、コロナ禍にあっても継続した成果といえる。
こうしたデータやケースからいえることは、インバウンド需要は地方においても享受できる可能性を持つということ。そのためには効果的なプロモーション施策が欠かせないこと。そして、それらを継続して実施していくことが重要ということだろう。インバウンドの恩恵は待つものではなく、地域自らがつくり出すものであることも忘れてはならない。
村木智裕●インセオリー代表取締役。1998年広島県入庁。財政課や県議会事務局など地方自治の中枢を経験。2013年からせとうちDMOの設立を担当し20年3月までCMOを務める(18年3月広島県退職)。現在、自治体やDMOの運営・マーケティングのサポートを行うIntheory(インセオリー)の代表。一橋大学MBA非常勤講師。
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