ノンアル旅でいこう 高まる健康志向と消費の変化

2024.09.30 00:00

(C)iStock.com/NatalyaVilman

旅行中にアルコールを楽しまないノンアル旅が注目を集めている。背景にあるのは、若年層を中心に世界中で進行するアルコール離れや健康志向の高まりだ。成長を見込めるノンアル旅行市場。その展望と攻略法は。

 アルコール離れが進んでいる。米ギャラップ社が8月に発表した米国での調査によると、アルコール飲料を飲む(1日1~2杯)のは健康に悪いと答えた成人の割合は45%で過去最高となった。18年の前回調査から17ポイント上昇している。特に若年層では飲酒が健康に悪いと考える傾向が強く、35~54歳が37%、55歳以上が39%であるのに対し、18~34歳では65%にも達している。

 英国の調査会社YouGovは英国におけるアルコール離れを報告。英国人の3分の1(32%)は飲酒していないと見積もる。またアルコール離れの潮流の中で英国から生まれた新たな習慣、ドライ・ジャニュアリー(年始の1カ月を断酒する運動)に、23年1月に取り組もうと考えた英国人が成人全体の10%いたと報告している。

 ワイン大国フランスでもアルコール離れが止まらない。フランス人の年間1人当たりのワイン消費量は100年で3分の1減少したといわれ、1926年に過去最高の約136リットルだったが現在は約40リットルまで減った。40年前に成人の半数が毎日ワインを飲んでいたとされるフランスだが、いまやワインを飲む成人の割合は2割に満たないという。代わって消費が増えているのがミネラルウオーターや炭酸水などアルコールを含まない飲料。同じようにワイン大国だったイタリアやスペイン、ギリシャでもワイン消費量減少が見られる。

 世界的なアルコール離れの要因の1つに挙げられるのが世界保健機関(WHO)の動きだ。WHOはアルコールによる健康被害への警告を年々強めている。2010年の世界保健総会で「アルコールの有害な使用を低減するための世界戦略」を決議し、「飲酒や酩酊による悪影響の低減」など10分野の政策オプションを決めた。翌11年にはポリティカル・デクラレーション(政治宣言)として25年までにアルコールの有害な使用を10%低減する数値目標を掲げた。さらに15年にまとめたSDGsの中では麻薬乱用やアルコールの有害な使用を含む物質乱用の予防と治療の強化を掲げている。

 23年にはアルコールは少量でも健康に害があると指摘し、アルコール摂取には安全な量などないことを明確にした。WHOがここまで強い警告を発したのはアルコールの悪影響を重く見ているからだ。WHOによると、19年に世界では飲酒を原因とした死亡者数が男性200万人、女性60万人の合計260万人に達している。15歳以上の世界人口の7%に当たる4億人がアルコール使用障害を抱えているとの推計も明らかにしている。そのうえで「アルコール摂取はたとえ低レベルでも健康リスクをもたらす可能性がある」と明言し、「その有害な影響から身を守るための個々の行動を取ることが重要だ」と訴えている。

 世界のアルコールメーカーで構成する業界団体IARDも12年に未成年者飲酒の低減やマーケティング自主基準の強化など「アルコールの有害な使用を低減するための世界戦略」を発表。13年には不適切な飲酒の撲滅と適正な飲酒の推進を強化する方針を打ち出した。

 アルコール規制を強化する国も出てきた。23年にはアイルランド議会がすべてのアルコール製品に対して、アルコールによる肝臓病やがんのリスクを説明する警告ラベルの表示を義務付ける法案を可決。26年5月から施行する予定だ。

 このほかスペインのマジョルカ島などでは観光客に提供するアルコールの量を1日6杯までとする規制が20年に導入されている。こちらは健康被害の低減というより酒の飲み過ぎによる乱痴気騒ぎをなくすための対策だが、リゾート地でも飲酒規制に乗り出さざるを得ない時代に来ている。

【続きは週刊トラベルジャーナル24年9月30日号で】

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