2024年9月23日 8:00 AM
現職に就いて1年、以前勤めていた会社の営業区域が関東・東北・甲信越の東日本だったこともあり、西日本(中部・関西・四国・九州・沖縄)の関係者との交流は実に新鮮だった。名古屋、大阪、福岡、広島、高松といった地域の中核都市を中心にそれぞれの地域が有機的にまとまっている印象だ。どちらかといえば東日本は真面目・慎重・慎ましいのに対し、西日本は陽気・積極的・にぎやかである。霞が関で話題にした時、諸政策を進めていくと時折、西高東低の傾向が表れることがあると言われた。
民間有識者でつくる人口戦略会議は4月、国立社会保障・人口問題研究所の推計を基に、1700余の自治体・地域を分類。20~39歳の女性人口が20年から50年までの30年間で半減する市町村744を消滅可能性自治体として公表した。その分布が北海道や東北といった東日本に偏在して西高東低となっていることが話題になった。全国的な人口減に加えて、東日本では近年、適齢期の女性人口が男性に比べて大きく下回り、さらに出生率の低下が少子化のスピードを速めている。
一般的に医療(特に産婦人科、小児科)、教育(幼稚園、高校等)関連のソフトインフラの充実度が影響することは知られているが、自治体の定住・移住施策への積極性、国が進めてきた3世代同居に対する地域の考え方も目に見えない背景としてあるのではないか。産業構造が製造業から3次産業中心に変化したこと、高学歴化、経済活動の東京一極集中も大きな要因だろう。東京から遠く、途中に名古屋、大阪、福岡といった大都市がある西日本と比べ、東京に近い東日本は就労の意思決定に大きく影響していて人口移動が偏るのもうなずける。
ワークライフバランスなど働き方改革が東京で進んでいることも若者の心をつかんでいるのかもしれない。平成の市町村合併も西高東低だったと聞く。文化庁の進める日本遺産登録地域数も、人口当たりの美術館数、表現の担い手としてのアーティスト輩出数もやはり西高東低だ。
かつて稲作を中心とした農業が主力産業だった東北は田に引く水の管理もあったのかもしれないが、同質性を求めるところがあり、個性を主張しづらい環境だったのかもしれない。いまは観光振興に力を入れているが、果たして若者たちはどう思っているのだろうか。働きがいと安定した職業として観光産業を選ぶだろうか。西日本も同じくこのまま人口が減り続けていくと、通常期の観光客の受け入れにさえ支障が出てくる。
外国からの労働者受け入れ拡大、DX推進で生産性を向上させるだけでは地域の観光産業に必要な人手をまかなうのは困難になる。2024年問題もあって路線バスやタクシーは大幅な減便・減車を続けている。新幹線や空港の接続交通として役割を果たすことはすでに困難といってもよいだろう。自治体が運営するコミュニティーバスや乗合タクシーなども住民利用のみを前提とした仕組み・運営のところが多く、市町村境を越える路線も次々と廃止になっている。
インターネット上に路線図や運行時刻の掲載がされていないところもある。仮にライドシェアを本格導入できたとしても人口減が進むなかドライバーを充分に確保できるのかは疑問だ。特に東日本は先行して地域、自治体の垣根を越えて課題解決に取り組む必要に迫られている。
この他にも西高東低がある。観光では核となる都市や強いリーダーが少ない東日本。観光による地域活性化実現のために個々の自治体で抱え込むことなく、広域で活発に議論し、解決に結びつけていくことが必要だ。
最明仁●日本観光振興協会理事長。JR東日本で主に鉄道営業、旅行業、観光事業に従事。JNTOシドニー事務所、JR東日本訪日旅行手配センター所長。新潟支社営業部長、本社観光戦略室長、ニューヨーク事務所長、国際事業本部長等を経て23年6月より現職。
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