東南アジアに熱視線 変わる日本の立ち位置
2024.09.23 00:00
将来的な人口増加と経済拡大が見込める東南アジアは日本の観光産業を左右する成長市場だ。しかし、日本がこの需要を取り込むには、従来のような対途上国の発想は捨てなければならない。東南アジアに注がれる熱視線と日本の立ち位置の変化について考える。
日本は経済発展モデルとしても旅行目的地としても、東南アジアの国々から憧れられる存在――そんな概念は過去のものになりつつある。
30年間も経済成長がなく、分厚い中産階級が支える豊かな国から転落した日本の国力の衰退に危機感を示し、「日本人はこのままでは滅びる」と断じたファーストリテイリングの柳井正代表取締役会長兼社長のインタビューが物議を醸している。しかし同氏の発言を待つまでもなく、日本の没落ぶりは以前からさまざまに指摘されてきた。
経済面だけではない。旅行先としての日本についても同様だ。「世界的に見れば今や日本こそが辺境の地、世界の古都」と2月16日付の朝日新聞で述べたのは、世界を旅するノンフィクション作家の高野秀行氏だ。政治・経済・科学技術・デジタル化のどの面を見ても時代遅れの日本は、アジアの人々にとっては懐かしさを感じさせる旅行先で、世界の目と自画像にずれがあると分析。同氏は数年前から、日本に憧れて来日していると考えるのも半分以上は間違い、と指摘している。
エクスペディアグループのマイケル・ダイクス・アジア太平洋担当副社長は、出張でアジア各国を頻繁に訪問したりシンガポールを拠点としていた頃の体験を踏まえ、「確かに訪日外国人は多いが、日本は『少し年上の人たちが行く国』というイメージ。若者が格好良さを求めて向かうのは韓国や東南アジアという印象を肌感覚として受けている」と語る。
同氏は5月に都内で開かれたオンライン旅行業の国際会議で、旅行業界は中産階級の割合が高まるアジア太平洋市場で稼ぐべきとの持論を展開。その上で、「アセアンやインドの富裕層の割合は30年に日本と同じになる。(彼らに対し)途上国という考えは不要」と指摘し、注目を集めた。
アセアン諸国の今後の経済成長は疑いようがない。合計人口は約6億7800万人とすでに多い。その上、出生率の高い国が多く、将来的にはさらなる人口増が見込まれる。国連人口基金の世界人口白書2024によると、特殊出生率はフィリピン2.7、ラオス2.4、カンボジア2.3、インドネシア2.1、ミャンマー2.1と軒並み2.0を超えている。
高い出生率を背景とした人口ボーナスの後押しも見込まれ、アセアンの経済成長はまだまだ続く。世界経済フォーラム(WEF)のレポートによれば、30年までに世界4位の経済圏になり、各国の国内消費は2.2倍の4兆ドルに達すると予想する。
特に中産階級の拡大は著しい。30年時点でアセアンの人口の67%を占めると推計。貧困ラインである年間世帯年収1000ドルを超え、新たに中産階級への道を歩み始める世帯数は30年までに100万以上増加すると見込む。特にインドネシアでは、高所得世帯の支出が全体の9%から25%に拡大するだけでなく、人口の75%に達する中産階級が支出全体の72%を占めるようになると予測している。
また、香港上海銀行のHSBCグローバルリサーチは、少なくとも25万ドル以上の資産を持つ成人がアセアンやインドでは30年までに倍増し、35年には日本を凌駕すると試算している。
「特にインドは変化が早い。訪れるたびに街の活気が増し、クリーンになり、宿泊施設のレベルも向上している。以前の中国と同じ勢いを感じる」。エクスペディアのダイクス氏はそう証言する。「豊かになり衣食住が足りれば、次は体験を求めるのが人間。なかでも旅行は非常に強力な体験となり得る。旅行需要の増大は明らかだ」と付け加える。
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