『地球行商人 味の素グリーンベレー』 食を変えた立役者の奮闘
2024.09.23 00:00

「アジノモトが来てからインドネシアのメシは美味くなったんだよ」
昔、市場のおやじに真顔で言われ吹き出したことがある。特に1990年代半ばごろから、各国の市場で味の素の小袋を見るようになった。当時、アジアご飯のレシピ本を作るべく各地の屋台で取材したところ、かなりの確率で材料に味の素が含まれていて驚いた記憶もある。現地の味=味の素だったのだ。
なんというヤバい調味料であろうか。
お手軽で効果抜群なだけに、日本でもこれを使う・使わないでなにかと議論になりがちなうまみ調味料、味の素。優れた食品であることは間違いないが、どうやってこんなに世界に広まったのか。本書はそのいきさつを現場の目を通して追ったノンフィクションだ。
フィリピン、ベトナム、中国、ナイジェリア、ペルーと、およそ味の素と関係なさそうな地に同社の海外市場開拓チーム、通称グリーンベレーは入り込む。味の素の小袋と陳列ハンガーを手に現地の市場を1軒1軒回り、現金で売り、伝票を切り、古くなった商品を回収する。地を這うようなスタイルで市場に切り込み、同時に味の素を使うことで美味しくなる庶民の味を探り商品を開発する。インドネシアでのハラル問題やエジプト革命など、逆風や困難にも見舞われつつ、市場から引かない地球行商人たちの姿は「プロジェクトX」みたいで雄々しくかっこいい。
登場人物がおじさんばっかりなのも、「必ずメモを取る」「セールス十訓を唱和する」みたいな社内ルールもいかにも昭和。日本のビジネスマンが世界を駆け回り、強い経済を背景に明るい未来を信じて突き進めたいい時代だったんだなと思う。最後はコロナ禍で締めくくられる味の素の物語。10年後にはどんな展開を見せているんだろうか。

山田静●女子旅を元気にしたいと1999年に結成した「ひとり旅活性化委員会」主宰。旅の編集者・ライターとして、『決定版女ひとり旅読本』『女子バンコク』(双葉社)など企画編集多数。最新刊に『旅の賢人たちがつくった 女子ひとり海外旅行最強ナビ』(辰巳出版)。京都の小さな旅館「京町家 楽遊 堀川五条」「京町家 楽遊 仏光寺東町」の運営も担当。
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