縦社会の経験
2024.09.16 08:00

いまから18年前、18歳人口は131万人だった。すなわち現在の36歳は270万人いた団塊世代の半数以下の生産人口で経済を回している。30年間日本経済は成長していないといわれるが、現状維持を続けていること自体、すごいことではないか。そして現在の18歳人口は109万人。18年間で22万人減少した。人手不足が顕著になっているが、これだけ少子化が進めば当然のことだ。
人手不足という言葉も死語になる。18年後の18歳人口は69万人。さらに40万人も減少するためだ。この時点で新卒は限られた企業しか採れず中途採用中心となる。そもそも現在と同数の労働者が確保できると考えること自体夢物語だ。60万人台というのは現在の大学志願者数とほぼ同数。大学が存続しているとすれば全員合格するということである。東大も早慶も入り放題となれば学力試験も不要。もちろん大学や専門学校も閉校したり、業態を変えたりしているかもしれない。
大学入試はペーパーテスト型からアチーブメントテスト型になり、高校時代までにどのような経験をしたかを問われる青田買い式になる。そうなると高校ではさまざまな調査研究を課す探究の時間が重視される。しかし高校はもちろん小中学校も減少し続けていく点を忘れてはならない。都市部でも地方の学校は統廃合を繰り返し、過疎地では子供の姿が見えなくなる。
こうした時代を予見した時、根本的に社会のあり方を見直さない限り、ビジネス誌で書かれていたように「なぜ今年の新入社員はひどいが毎年続くのか」が一層悪化していく。社会で働く前に社会教育を課さなければ働けない若者が普遍化する。その頃、高校生の3割程度、優秀層ほど通信制高校に通い、東大や海外の大学へと生徒を排出するようになり、普通高校は探究の時間を重視し、中堅大学に学力試験なしで生徒を送り出す。
いずれも生徒の決定的な弱点は家族や学校以外の大人との接点が全くなくなる点だ。縦社会の経験がないと、プライドばかり高い割に自信のない「社会人としてはいまいち使えない若者」が量産される。すでに現在でもその兆候があるが、18年後には大切に育てられ同級生社会でしか承認されない大人の格好をした子供ばかりが社会人となる。かつて社会学者・中根千枝は「タテ社会の人間関係」を著し日本社会の特殊性を説いたが、いまやヨコ社会の人間関係の冷酷さと未熟さを指摘すべきだ。
社会を維持するには高校・大学時代に縦社会の体験を義務化すべきである。恐らく自衛隊も維持困難となるので韓国のようになるかもしれない。海外経験や叱られる経験は当然だ。インターンシップは社会的処方の場となり、採用とは一線を画す。こうした仕組みを構築するため、最も事業化に結び付けられるのがツーリズム業界ではないか。常に移動を伴い、地方や海外が教育の場になる時、わが産業は教育産業に進化している気がする。

井門隆夫●國學院大學観光まちづくり学部教授。旅行会社と観光シンクタンクを経て、旅館業のイノベーションを支援する井門観光研究所を設立。関西国際大学、高崎経済大学地域政策学部を経て22年4月から現職。将来、旅館業を承継・起業したい人材の育成も行っている。
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