いまこそ知りたい世界遺産 持続可能なツーリズムのために
2024.09.16 00:00
世界遺産は現在、200近い国々で合計1200件以上が登録されている。7月には「佐渡島の金山」の世界文化遺産登録が決まり、日本の世界遺産数も26件まで増えた。しかし世界遺産条約が採択されて半世紀。抱える課題も少なくない。
7月にインドのニューデリーで開催されたユネスコ世界遺産委員会で佐渡島の金山の世界文化遺産登録が決まった。これを受けて新潟県の花角英世知事は「世界の宝として認められたことを誇りに思う」と喜びのコメントを発表。さらに「国内外から多くの方々に本県を訪れていただき、佐渡島の金山の文化遺産としての価値や、佐渡・新潟の魅力を知っていただけるよう、引き続き取り組んでいく」と観光波及効果への期待をにじませた。
新潟県と佐渡市にとって世界遺産登録は文字どおりの悲願だった。1997年に市民団体による世界遺産登録に向けた運動が始まってから27年、紆余曲折を経てようやく登録にこぎ着けた。登録のためには、まず国が登録を推薦するための候補と認められ、ユネスコに提出する推薦書暫定リストに記載されなければならない。文化審議会の世界文化遺産特別委員会は2010年に「金を中心とする佐渡鉱山の遺跡群」を暫定リストに記載することを認めた。しかし登録へ向けた次のステップである国の推薦対象にはなかなか昇格できず、選定見送りとなる状況が続いた。ようやく国の推薦が決定したのは22年2月のこと。その後も鉱山で働いた韓国人労働者の存在を重視する韓国政府との意見調整なども必要となり、今年ようやく27年越しの夢がかなった。
世界遺産は1972年のユネスコ総会で採択された世界遺産条約がその基盤となっている。世界遺産には文化遺産、自然遺産、複合遺産の3つがある。文化遺産のルーツは、エジプトのアスワンハイダムの建設によって水没危機を迎えていたアブシンベル神殿等の遺跡の移築事業に関する国際協力だったとされる。一方の自然遺産は国際自然保護連合による「世界遺産トラスト」のアイデアが下敷きとなった。そして両者を統合する形で72年に世界遺産条約として採択されることになった。
世界遺産条約の目的は「文化遺産および自然遺産を人類全体のための世界の遺産として損傷、破壊等の脅威から保護し、保存することが重要であるとの観点から、国際的な協力および援助の体制を確立すること」。日本は92年に条約を批准した。
75年の条約発効後、世界遺産が登録されていったが、その形はこれまで少しずつ変化してきた。例えば建造物に関しては当初はオリジナルな真正性が極めて重視されたが、その後、建造当時と同じ建築方法であれば個別の部材が新しいものに交換されても真正性が認められるようになった。
遺産の新たな類型として文化的景観や産業遺産、20世紀建築なども認められるようになった。これによって登録が実現したのが、「紀伊山地の霊場と参詣道」(文化的景観)や「富岡製糸場と絹産業遺産群」(産業遺産)であり、「ル・コルビュジエの建築作品-近代建築運動への顕著な貢献-」(20世紀建築)だった。さらに複数の文化財を1つのストーリーでまとめて登録する道も開かれ、「明治日本の産業革命遺産 製鉄・製鋼、造船、石炭産業」の登録につながった。
新類型の増加は登録遺産が欧州に偏る地域バランスを是正するユネスコの狙いがある。新類型の登場により確かにこれまで世界遺産が少なかった国・地域にも登録遺産が増えた。とはいえ、2019年度の登録状況で見ると、欧州・北米が全体の47%を占め、以下、アジア・太平洋24%、中南米・カリブ13%、アフリカ9%、中東8%とまだまだ地域差が大きい。
登録件数の増加も手放しでは喜べない状況だ。1990年に335件だった世界遺産は10年で倍増し2000年には690件に達した。さらに14年には1000件を超えている。今年7月のユネスコ世界遺産委員会では、佐渡を含む26件の新規登録が決まり、世界遺産の約定国にナウルが加わった。これにより現在の登録世界遺産は1223件、1990年の3.7倍まで増えた。約定国も196カ国となり、世界遺産条約は最も多く批准されている条約の1つとなっている。
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