高騰する米大学の授業料

2024.09.09 00:00

 日本でも公私立問わず大学の授業料値上げが話題だが、米国でも私立大学の学費がいずれ年間約10万ドル(約1550万円)に達し、卒業までの4年間で約6200万円必要になるとニューヨーク・タイムズが伝えている。

 ヴァンダービルト大学工学部は新入生宛ての手紙で、部屋代、食費、個人的出費、パソコン代など含む年間の学費が9万8426ドル必要と連絡した。ナッシュビルにある大学とロサンゼルスの自宅を年3回往復する学生なら総額10万ドル超えとなり、同大学でこの額を払うことができるのは奨学金などの援助を受けない35%の学生だ。

 大多数の他大学の授業料も数年以内に同様の額に達するだろう。これに対し大学入学希望者には2つの疑問が生じる。なぜ高騰するのか、そして大学にそれだけの価値があるのかである。

 実態はどうだろう。非営利団体カレッジボードによると、23~24年の授業料、住居費、食費の平均総額は4年制私大で5万6190ドル、4年制公立大の州内学生で2万4030ドル。連邦政府のデータによると、19~20年度で2年制短大に通う州内学生の39%が授業料を支払うに十分な助成金を得ている(生活費除く)。また、4年制公立大生の31%が授業料を免除され、私大生の18%が同様の資格を得ていた。私大はあらゆる年収層の学生に多額の支援を提供しており、全米大学ビジネスオフィサー協会の調査では、私大の22~23年度の平均実支払い授業料は規定の44%だ。

 ヴァンダービルト大にも寛大な支援制度があり、今年は年収15万ドル(2325万円)以下の家庭のほとんどが授業料免除になっている。それでも35%に当たる2000人以上の学生は支援を受けず、間もなく年間10万ドル以上支払うことになる。

 なぜ私大の学費はこれほど高騰するのか。莫大な寄付金を持つ小規模な大学は、10万ドルでさえ学生を教育するための平均的費用を賄うことはできないという。例えばウィリアムズ大では学生1人当たり支出額が授業料より約5万ドル多い。

 ヴァンダービルト大の学生1人当たり経費は11万9000ドルで授業料との差額を寄付と卒業生の慈善活動で賄う。同大学の23年度運営費の52%が教職員給与と学生への支援給付だ。高等教育は人的サービスであって生産性の伸びがあまり見られず、高学歴労働者の賃金の急上昇もあり運営は多難だ。

 一方で4年間の大学教育は40万ドルの価値があるのかと授業料の割引を受けない富裕層も疑問を持っている。連邦政府のデータによると政府援助を受けた卒業生の4年後の年収中央値はヴァンダービルト大の医学専攻生で9万4340ドル、文学専攻生で5万3767ドル。志願者は定められた授業料を支払うことを前提に志願する。エリート校が難関だからこそ志願するのかもしれないが富裕層の支払う10万ドルの授業料は一般人の関心事項ではない。

 州立大でも同等の価値のある学位取得は可能だ。学生たちが低コストで州立大を卒業し、中流階級の年収を得ることができるかが課題だろう。

平尾政彦●1969年京都大学文学部卒業後、JTB入社。本社部門、ニューヨーク、高松、オーストラリアなどを経て2008年にJTB情報開発(JMC)を退職。09~14年に四国ツーリズム創造機構事業推進本部長を務めた。

関連キーワード