来たれ!クルーズブーム 日本船建造ラッシュをてこに

2024.09.09 00:00

(C)iStock.com/MNStudio

商船三井クルーズが12月に予定する「MITSUI OCEAN FUJI」の就航後、日本船社による新造船のデビューが相次ぐ。郵船クルーズの飛鳥Ⅲやオリエンタルランドの大型客船も加わる数年後、日本船は大幅に増え、長年の2~3隻体制に終止符が打たれる。その時、クルーズはメジャーな旅行商材になり得ているだろうか。

 東京ディズニーランドを所有・運営するオリエンタルランドが7月に発表したクルーズ事業への着手は、クルーズ業界を大いに驚かせるものだった。クルーズ領域への進出はもとより、約3300億円という巨額を投じて14万トン級の新造船を用意し、日本籍船として日本を拠点に運航するという想像を超える内容だったからだ。

 世界的に見れば、クルーズ船の大型化が急速に進んでおり、最大は25万トンで20万トン台も珍しくない。15万トン以上の豪華客船はごろごろある時代だが、それでも14万トン・乗客定員4000人は日本船籍のクルーズ船としては過去最大。オリエンタルランドがクルーズ事業にかける意気込みが知れようというものだ。来年度から建造を開始し、28年度の就航を予定している。

 オリエンタルランドは日本を拠点とするディズニークルーズ事業に関するライセンス契約を、米ディズニー・エンタプライゼズとの間で締結。新造船はディズニークルーズの既存の船を参考にして設計されたものとなり、ディズニーらしいエンターテインメント性に富んだクルーズ体験を提供できる船を目指している。

 オリエンタルランドはクルーズ事業を、長期持続的な成長のために新たな収益機会をもたらす新規事業として位置付けている。その背景には、テーマパーク事業やホテル事業で培ってきた運営ノウハウやディズニーとの強固な信頼関係といった強みがクルーズ事業に生かせるとの読みがある。

 就航から数年後に年間乗客数約40万人、年間売上高約1000億円を見込んでおり、メインターゲットはファミリー層や若者層、訪日外国人旅行者を想定。販売価格は最も多い客室タイプの場合、1人1航海当たり10万円台から30万円台まで幅広い価格帯を用意することを検討中だという。

 注目されるのは、新造船が日本船籍になる予定である点だ。オリエンタルランドの吉田謙次代表取締役社長は発表記者会見で、日本籍船にする理由を「無寄港で短期のクルーズをするため」と説明した。外国籍船となれば、カボタージュ規制をクリアするために最低1回は外国の港に寄港する必要がある。日本を拠点にして短期クルーズを実現するには、日本籍船であることは必須条件だ。

 日本の休暇取得の現状を考えれば、需要開拓に短期クルーズが欠かせない。オリエンタルランドは「メインは首都圏の港を発着する周遊クルーズになる。2~4泊を船内で過ごし首都圏の港に戻ってくる内容」(広報部)としている。

 短期間とはいえ、無寄港の洋上航海は単調な船旅になりがちだが、人気キャラクターを起用したエンターテインメントを駆使した没入体験を提供するなど、「夢の船旅」を演出できるのがディズニークルーズならではの強みだ。このアドバンテージを最大限に生かすために、一部を除いて食事やレクリエーションを含むオールインクルーシブの料金を採用する。海外への寄港を含む航路も検討しており、国内外のバリエーションに富んだコースを設定していく方針だ。

 新造船ラッシュの先陣に位置付けられる商船三井クルーズでは、親会社の商船三井が昨年3月にシーボーンクルーズから3万2000トンのラグジュアリークラスの客船を購入。2年近くをかけて全客室スイートキャビンを基本とする「MITSUI OCEAN FUJI(ミツイ・オーシャン・フジ)」としてリニューアル。数年後に日本籍船に変更する予定だ。その後も、遠洋航行が可能な3万5000トン級のクルーズ船2隻を建造する予定だ。

 新造船2隻への総投資額は約1000億円に上り、1隻目は27年ごろの竣工を目指している。現在運航するにっぽん丸は建造から30年がたつが退役は決まっておらず、4隻並行して運航する可能性がある。

【続きは週刊トラベルジャーナル24年9月9日号で】

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