ああ夏休み

2024.09.09 08:00

 今年もようやく暑い夏が終わりつつある。毎年毎年「今年が一番暑い」と愚痴るのが定番のあいさつになってしまった感もある。これまで当欄で、日本で休日分散化やサマータイムを取り入れたらどうなるかを想像してきたが、今回はそもそも日本に夏休みは必要なのかを暑さにのぼせた脳の体操のテーマにしてみる。

 日本の学校における児童・生徒の夏休みは1881年に文部省が夏季休業を定めたことが始まりだという。目的は諸説あるが、当時は校舎に冷房設備などあるはずもなく、授業が困難であったためという理由が大きかったようだ。ちなみに日照や採光重視の指針があるため日本のほとんどの校舎は南向きだ。そして、その期間には宿題を出され、普段学校ではできない体験や挑戦をすることとされた。このモデルは100年以上変わっていない。

 しかし、夏の暑さに対するイメージは大きく変わった。体験を勧めるどころか、環境省が連日のように熱中症警戒アラートを発表し、熱中症対策はもちろん、運動、外出、イベント等の中止を促す世の中になった。夏の風物詩でもある高校野球ですらその是非を問われている。一方で炎天下が続くかと思えば、ゲリラ豪雨や台風などの天候災害も増えている印象がある。子供が冒険することで夏の思い出をつくるにしてはどうも騒々しい時期なのだ。

 異常気象が本当に増えているのか、社会が安全に対して神経質になり過ぎていないかなど疑問はあるが、多くの国民が8月は行動に不向きな時期になったと感じ始めた。そうであれば夏休みの目的も変化して然るべきだ。

 例えば夏休みを他の時期にずらすことになったとして、反対意見が出るとすればお盆や夏祭りといった伝統行事を重んじる人たちからだろう。しかし、外出自粛や人不足で夏祭りの縮小・中止が相次ぐ昨今、行事を継続すること自体ますます厳しくなる。お盆期間は大人もしっかり休めるようGW程度の連休を設定するなどでイベントの維持を図りつつ、観光地にも一定の配慮が可能だろう。

 さらに大きな論点として日本の教育機関の4月入学制の是非がある。ご承知の通り、会計年度に合わせた日本の4月入学制は世界ではレアケース。しかし行政、経済、教育のすべてを3月末で一気にリセットするのはなかなか大変だ(転勤と転校が一致するなど日本的なメリットもあるが)。一方で例えば受験シーズンに降雪トラブルがあるなど、学校生活は夏以外も決してスムーズな歳時記でない。

 日本が生き残るために教育の国際化は必須であるし、海外留学や国際交流の少ない理由の筆頭として入学月の違いが挙げられるのだから、昔の事情や慣習をいったん忘れ、子供の過ごしやすい1年間はどうあるべきか、総合的な議論を始めてもおかしくはないだろう。

 コロナ禍で教育機関もストップした時期にも新学期を移動させようという議論が上がったが、さすがにそこまでの段取りはできなかった。欧米の趨勢である9月入学をイメージした場合、お盆から8月末を学年末夏休みと設定すればそれほど違和感がない。

 大型の休みも、3学期制を維持するならば12月、2学期制にするなら2月あたりに長期の休みを持ってくることになる。さすがに昆虫採集には厳しいが、スポーツ大会も体験学習も夏同様に可能だし、それなりに学ぶ機会はありそうだ。

 高校野球を7回裏で終えるという議論もあるが、枝葉末節の修正で終わらせる話ではない。もっと「暑い」議論が始まってもよい時期だ。

永山久徳●下電ホテルグループ代表。岡山県倉敷市出身。筑波大学大学院修了。東急不動産を経て下電ホテル入社。全旅連青年部長、日本旅館協会副会長、岡山県旅館組合理事長などを歴任。メディアを活用した業界情報発信に注力する。グローバルツーリズム経営研究所主任研究員。

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