2024年8月19日 12:00 AM
国際観光競争力のさらなる向上が求められるなか、日本の文化の持つ潜在力に期待が集まっている。だが、その価値を発信して観光客を呼び込む政策や戦略が不足しているとの指摘は少なくない。新たな価値創出につながる文化のチカラをどう生かせばいいのか。
その国の観光競争力を構成する要素はさまざまだが、これからの日本にとって文化は競争力向上の鍵を握る重要な要素となっていくはずだ。国連世界観光機関駐日事務所の本保芳明代表は本誌6月17日号特集の中で、アジア各国で交通などインフラや地域の整備が急速に進み、観光競争力が格段に向上するとした上で、日本が競争力を維持していくためには「相対化し難い日本固有の価値の強化、追求が必要となる。その鍵は間違いなく文化と歴史だ」と断言している。
しかし、素晴らしい文化・歴史遺産に恵まれながら、文化予算や教育予算はOECDの中で最低水準で、文化輸出でも出遅れてしまっている。本保代表は「衰退する日本が生き残る道は文化大国だと思うが、これが現実だ」と厳しく指摘する。
世界経済フォーラムが119カ国を対象に実施した調査に基づき各国の観光基盤などを評価した「旅行・観光開発指数2024」では、日本が米国、スペインに次ぐ3位となった。評価項目の中でも特に高く評価されたのが「文化資源」でイタリアに次ぐ2位。総合順位を支える要素の1つとなった。世界文化遺産や口承・無形文化遺産の数、文化観光・娯楽のオンライン検索数などで測られ、日本の文化資源の潜在力は世界が認めるところのようだが、それが十分に生かされているかどうかは別問題だ。
文化庁によると、日本の文化GDP(文化部門の国内総生産)は20年に推計10兆3485億円。ユネスコ基準に基づき諸外国と比較した18年(10兆5385億円)を例に取ると、フランスの5兆9517億円や英国の9兆8950億円を上回るが、GDP全体に占める割合は1.9%で、フランスの2.3%、英国の3.5%に及ばない。ドイツ(13兆1009億円・3.0%)や米国(98兆4604億円・4.5%)には額・比率ともに大きく水を開けられている。
国民1人当たりの文化GDPも英国と米国の3分の1以下で、フィンランド、オーストラリア、フランス、カナダ、ドイツにも及ばない。裏返せば、日本より文化への関心も支出も高い市場から観光客を誘致し、文化体験を提供しようとしていることになる。
日本全体では比較的高い評価を受けている文化的資源だが、都市レベルに絞り込んだ調査を見ると日本の弱点も見えてくる。森記念財団都市戦略研究所が昨年11月に発表した「世界の都市総合力ランキング」で、東京はロンドン、ニューヨークに次ぐ3位だったが、総合力を構成する6分野(経済、研究・開発、文化・交流、居住、環境、交通アクセス)のうち、文化・交流の分野は4位のドバイと僅差の5位となった。首位ロンドンとの差は大きく、スコアはロンドンの367.6に対し、東京は237.5にとどまる。
文化・交流で日本は何がウイークポイントなのか。この分野は、5カテゴリー(発信力、観光資源、文化施設、受入環境、外国人受入実績)の16項目(文化イベント件数、アート市場環境、ナイトライフ充実度、ホテル客室数等)で評価されているが、文化イベント件数、ホテル客室数、買い物の魅力、食事の魅力の各項目は、いずれもナンバーワンのスコアを獲得している。ところが明らかに弱点項目となっているのがハイクラスホテルの客室数とナイトライフ充実度だ。東京のハイクラスホテル客室数のスコアは17.3で、ロンドンの63.5やニューヨークの37.0に大きく見劣りする。
より深刻なのがナイトライフ充実度で、東京のスコアは35.2で全体の30位。ロンドンの100.0やニューヨークの76.3に大差がついた。総合順位では日本を下回ったパリ(61.1)やドバイ(64.5)、ソウル(56.3)、ベルリン(65.8)にも水を開けられている。総合順位のトップ10都市でナイトライフの充実度のスコアが東京を下回るのは5位のシンガポール(29.0)だけだ。
【続きは週刊トラベルジャーナル24年8月19・26日号で】[1]
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