Travel Journal Online

百貨店の旅の実力やいかに

2024年8月19日 8:00 AM

 日頃からアンテナを張っているが、「そういえばこの種の店は取り上げていなかった」と思い付いたのが百貨店系列の旅行店舗。大手の旅行会社が展開するハイクラス店舗はガッカリすることが多いが、さて……。

 都内の老舗百貨店。上層階にある旅行サロンはフロアの一角を仕切った形で入り口のある造りだ。ショーウインドーの中にはパンフレットラックとスタンドポスターがドレスを展示するように品良く並び、入り口の小さな丸テーブルには小粋なディスプレイが飾られている。そこからは奥にある接客スペースがチラリと見える設計で、店舗の小ささを感じさせない上手な造りだ。また、それがちょっとしたバリアとなっていて、冷やかしの客は入りにくく無駄な接客を省くこともできる。

 ちなみに多くのハイクラス店舗は予約制を採るが、予約が取れないことも多く意外と不便。その点、ここはいつでも来店可能だ。仮にカウンターがふさがっていても、売り場を見て時間をつぶせるのは百貨店内ならではだ。

 少し奥まで進みパンフレットを見ていたらスタッフが穏やかに声をかけてきた。身なりはもちろん所作も整っていてさすが。温泉でゆっくり過ごしたいと伝えると、「私どもはすべて添乗員付きのオリジナル企画なので少々お値段が高くなりますがよろしいでしょうか」と、さりげなく客層をセレクトするが客を品定めする感じがなく良い印象。ちなみに下手なハイクラス店舗はここでNGなことが多い。

 「それは安心ですね」と応じると、パンフレットをいくつか広げ軽く説明を始めてくれた。僕が興味を示すと、「よろしかったら、こちらでゆっくり伺わせていただけますか」と、奥の接客スペースに案内してくれる。そこはまるで書斎のような雰囲気で適度な開放感もあり落ち着く。木製のコンシェルジュデスクが間を空けて3つ設置されている。ひじ掛け付き椅子の座り心地も良い。

 温泉系ツアーを説明してもらうなかで海外旅行の話になり、海外ツアーやクルーズのパンフレットも見せてもらった。すべて自社企画なので他の旅行店舗に比べパンフレットの種類は少ない。また、ベストシーズン限定のため出発日の設定も少ない。ただ、それだけにハズレはない。すべてのツアーに企画担当者の氏名が記載され安心できる。

 結果的に多くのツアーの話を聞くことになったが、さすがに自社企画だけあって説明にあやふやさはない。また、自身の経験や顧客の声を踏まえ、適切なアドバイスもある。話し方や敬語の使い方も上客慣れしていて安心していられる。そのほか何も引っかかるところがないのは珍しい。

 話の流れで自社制作の旅行情報誌を毎月郵送してくれることになった。フルカラー約50ページ。経費をかけすぎているのではと決算資料を調べてみたら、コロナ禍を除きしっかり黒字が出ていた。

 どの旅行店舗でもまねができるわけではないが、高級路線を目指すのであれば、お手本にするにはもってこいの店舗である。

黒須靖史●ステージアップ代表取締役。中小企業診断士。好奇心旺盛で旅好きな経営コンサルタント。さまざまな業種業態の経営支援に携わり、現場中心のアプローチに定評がある。