Travel Journal Online

自動車文化に冷たい国

2024年8月5日 8:00 AM

 わが国は自他ともに認める自動車大国ではあるが、だからといって国民と自動車がそれほど近い距離にいるようには見えない。道具として通勤やレジャーに使う程度の人が大半ではないだろうか。例えば日本ではモータースポーツもそれほど盛り上がらない。世界3大自動車レースの1つであるインディ500の存在を知っている人は多いだろうが、そこで2回優勝した佐藤琢磨選手がどれだけ一般のニュースに取り上げられたことだろうか。

 佐藤選手は米国であれば、大谷翔平選手や大坂なおみ選手に次ぐ知名度を持つ英雄だ。欧州ではF1人気が圧倒的だが、下位カテゴリーのレースにも注目が集まり、大抵の街には郊外に草レース用サーキットがあり日常的なスポーツになっている。

 日本ではこの3月、本格的に公道を使った国内初の国際レースとしてフォーミュラEが開催された。公道レースといえばF1モナコGPのように街並みを縫って走ることで世界中にプロモーションするのが目的の1つだ。観光政策に取り入れる国も多く、F1シンガポールGPはナイターで開催され、ライトアップされたランドマークの間を駆け回る。

 対して日本ではサーキットコースの半分が東京ビッグサイトの駐車場で、残りも有明の周辺道路だけ。レース中継を見た世界中の人たちが東京らしさを感じることはほとんどなかっただろう。せっかくの露出のチャンスを捨て、一般の人たちの邪魔にならないようこっそり行われたといわれても仕方ない。

 旧車を所有し愛でるのもまた自動車の楽しみ方の1つだ。いまでは昭和から平成のいわゆるバブル期の自動車がクラシックカーとして注目されている。しかし日本では車齢13年を超えると自動車税が15%程度増額される(ガソリン車)。車検ごとに支払う重量税も13年超と18年超のタイミングで一気に高くなる。旧車を大切にしたい人を優遇するどころかペナルティーを課されているのが現実だ。

 対して米国では古い車を愛でる人に優遇措置がある。州によっても異なるが、カリフォルニア州では車齢25年以上の歴史的な価値のあるモデルはヒストリカルビークルとして毎年の登録費用(税金)が大幅に減免される。バブル期の日本車はすべて含まれるので、スカイラインGT-Rなどの車を日本から輸入することがブームになっているようだ。日本では富裕層以外は文化財的な価値のある名車を所有することは難しく、スクラップにされるか海外に売られてしまうかだ。

 以上の例を見ても日本はまだまだ自動車文化に冷たく、この空気を変えていかなければ自動車文化は成熟しない。このままでは長期的に自動車に興味のない人が増え、開発・販売する側にも影響が出てしまうのではないか。

 自動車の他に日本を代表する産業としてゲームやマンガ、アニメがあるが、これも日本では厚遇されているとは思えない。子供がマンガやアニメを見ることに否定的な人はまだまだ多く、自治体によっては子供のゲーム時間を規制する条例もあるくらいだ。

 マンガ家やゲームクリエイターは最近の子供のなりたい職業の上位だ。輸出産業を担う子供を育てるのは国益にかなう話で、本来であれば喜ばしいことだが、なぜかいまだに大人の目は厳しい。しょせん不真面目な遊び、地に足が着いていない、成功するかどうか分からない…。そんな尺度で日本の未来を閉ざしていく必要はない。

 自動車を楽しむ大人もゲームで遊ぶ子供もこれからの日本にはますます必要なのだ。

永山久徳●下電ホテルグループ代表。岡山県倉敷市出身。筑波大学大学院修了。東急不動産を経て下電ホテル入社。全旅連青年部長、日本旅館協会副会長、岡山県旅館組合理事長などを歴任。メディアを活用した業界情報発信に注力する。グローバルツーリズム経営研究所主任研究員。